
繰越欠損金の基本|赤字を10年繰り越す条件と別表七での残高管理
去年の決算は赤字でした。税理士さんから「今期は法人税はかかりませんね」と言われて、そこで話が終わった。
それから1年。今期は、どうやら黒字になりそうです。売上が戻ってきたのはうれしい。でも、ふと引っかかることがある。
去年のあの赤字は、どこかへ消えてしまったんでしょうか。
「繰り越せますよ」と聞いた記憶はあります。でも、何年繰り越せるのか、いくらまで使えるのか、そもそも今いくら残っているのかが分からない。会計ソフトの残高試算表を上から下まで見ても、「繰越欠損金」という科目はどこにもありません。
大丈夫です。見つからないのには、はっきりした理由があります。繰越欠損金は、帳簿の中ではなく、申告書の中で管理されている数字だからです。場所さえ分かってしまえば、確かめるのは10分もかかりません。今日は、その場所と、使うための条件を、一緒にひとつずつ確かめていきましょう。
結論:青色申告書を提出した事業年度に出た赤字(欠損金)は、原則10年間繰り越して、翌期以降の黒字と相殺できます。使うための条件は3つだけ。① 赤字が出た年に青色申告書で申告していること、② その後、赤字でも毎年続けて確定申告書を出していること、③ 赤字が出た年の帳簿書類を保存していること。中小法人等(資本金1億円以下などの会社)なら、その期の所得の100%まで使えます。控除は古い年の分から順番に使われ、残高は決算書ではなく法人税申告書の「別表七(一)」に載っています。今日は、過去の申告書の控えを1冊出してきて、この別表を開いてみるだけで十分です。
繰越欠損金は、そもそも何をしてくれる仕組みなのか
会社の税金は、1年ごとに区切って計算します。でも、事業そのものは1年で区切れません。設備を入れた年に大きく赤字が出て、その設備で翌年から稼ぐ——そんなことは、どの会社にもあります。
もし1年ごとにブツ切りで課税すると、こうなってしまいます。
| 1期目 | 2期目 | 2年の合計 | |
|---|---|---|---|
| もうけ | △300万円 | +300万円 | 0円 |
| 繰越がないと | 税金なし | 300万円に課税 | 通算ゼロなのに税金だけ発生 |
2年ならして見ればプラスマイナスゼロなのに、税金だけ取られる。これはさすがに酷なので、赤字を翌期以降に持ち越して、黒字と相殺できる仕組みが用意されています。それが繰越欠損金です。

言葉の整理を、ひとつだけ。税法では、赤字のことを欠損金と呼びます。そして、それを翌期以降に持ち越して使うことを繰越控除といいます。「繰越欠損金」は、この持ち越されている赤字の残高、というイメージで大丈夫です。
ここで大事なのは、繰越欠損金は会計の数字ではなく、税務の数字だということです。仕訳は切りませんし、貸借対照表にも損益計算書にも出てきません。会計ソフトを探しても見つからなかったのは、あなたの探し方が悪かったからではありません。もともと、そこには無いのです。
使うための条件は、3つだけ
繰越欠損金は、赤字が出れば自動的に使える、というものではありません。ただ、条件は多くありません。3つです。
① 赤字が出た事業年度に、青色申告書で申告していること
いちばんの土台がこれです。欠損金が生じた事業年度に、青色申告書である確定申告書を提出していること。白色申告のまま赤字を出した年の分は、原則として繰り越せません。
法人の青色申告は、「青色申告の承認申請書」を出して承認を受けることで始まります。設立したばかりの会社なら、設立の日から3か月を経過した日と、設立第1期の終了の日のうち、いずれか早い日の前日までが提出期限です。すでに何年も申告している会社なら、まず間違いなく青色です。申告書の1枚目(別表一)に「青色申告」と印字されているので、そこで確認できます。
② その後、毎年続けて確定申告書を出していること
見落としがちなのがここです。赤字を繰り越している期間は、その後の各事業年度について、連続して確定申告書を提出している必要があります。
そして中小企業でときどき起きるのが、これです。
「今期は赤字で税金もゼロだから、申告はしなくていいですよね?」
赤字でも、法人税の申告は必要です。 ここで1年出し忘れると、連続提出が途切れて、せっかくの繰越欠損金が使えなくなるおそれがあります。しかも法人住民税の均等割は、赤字でもかかります。「税金ゼロ=申告不要」ではない、というのは、繰越欠損金を守るうえでもいちばん大事なところです。
なお、②の連続提出のほうは、必ずしも青色である必要はありません(青色の承認が取り消されるなどして白色になっても、申告さえ続けていれば、過去の青色欠損金の繰越自体は続けられる整理です)。とはいえ、青色のまま続けるのがいちばん安全なのは間違いありません。
③ 赤字が出た事業年度の帳簿書類を保存していること
3つ目は、書類の保存です。欠損金が生じた事業年度の帳簿書類を、その繰越期間にわたって保存しておく必要があります。
ここが実務でじわじわ効いてきます。通常の帳簿書類の保存は7年ですが、欠損金が生じた事業年度については10年(平成30年4月1日より前に開始した事業年度分は9年)です。「7年たったから捨てよう」と機械的に処分すると、赤字の年の書類まで一緒に捨ててしまうことがあります。
対策はかんたんです。赤字だった年のファイルの背に、目立つ色のシールを貼っておく。 それだけで、10年後のあなたが助かります。書類の整理そのものを見直すなら、証憑の整理とファイリングもあわせてどうぞ。
何年、繰り越せるのか
繰越期間は、平成30年4月1日以後に開始した事業年度に生じた欠損金は10年です。
それより前に開始した事業年度(平成20年4月1日〜平成30年3月31日に開始)に生じた分は、9年でした。
| 欠損金が生じた事業年度の開始日 | 繰り越せる期間 |
|---|---|
| 平成20年4月1日 〜 平成30年3月31日に開始 | 9年 |
| 平成30年4月1日以後に開始 | 10年 |
2026年8月の時点で、9年の古い分がまだ残っている会社は多くありませんが、ゼロでもありません。古い欠損金ほど、期限が早く来ます。ここは次の「古い順に使う」の話につながります。
いくらまで引けるのか——中小法人等は100%
繰り越した赤字を、その期の黒字にどこまでぶつけられるか。ここは会社の規模で分かれます。
| 会社の区分 | その期の所得のうち、控除できる上限 |
|---|---|
| 中小法人等(資本金1億円以下 など) | 所得の100% |
| それ以外の法人 | 所得の50% |
中小法人等とは、ざっくり言えば、事業年度終了の時の資本金(出資金)の額が1億円以下の普通法人です。ただし、資本金5億円以上の大法人に100%支配されている子会社などは、資本金が1億円以下でも中小法人等から外れます。
ひとり経理で回している規模の会社なら、ほとんどが中小法人等に当たります。つまり、その期の黒字を、繰越欠損金でゼロまで消せるということです。
(親会社が大きいグループの一員という会社は、ここだけ一度確認しておくと安心です。判断に迷うところなので、顧問税理士に「うちは中小法人等でいいんですよね」と一言聞けば済みます。)
使う順番は「古いものから」
繰越欠損金が複数の年にまたがって残っているとき、どれから使われるか。ルールは決まっていて、発生が古いものから順番です。
言われてみれば当然で、古いものほど期限切れが近いからです。実際に数字を並べてみます。(中小法人等・すべて青色申告・毎期きちんと申告している前提です。)
| 期 | その期の損益 | 控除に使える残高 | 実際に使う額 | 課税所得 | 期末の残高 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1期 | △300万円 | — | — | 0円 | 300万円(1期分) |
| 2期 | △100万円 | 300万円 | — | 0円 | 400万円(1期分300+2期分100) |
| 3期 | +250万円 | 400万円 | 250万円(1期分から) | 0円 | 150万円(1期分50+2期分100) |
| 4期 | +400万円 | 150万円 | 150万円(1期分50+2期分100) | 250万円 | 0円 |
3期を見てください。黒字が250万円出ましたが、1期の赤字300万円のうち250万円を充てて、課税所得は0円。1期分は300 - 250 = 50万円が残ります。
4期は黒字400万円。残っていた1期分50万円と2期分100万円、合わせて150万円を全部使い切って、課税所得は400 - 150 = 250万円。ここで初めて法人税がかかります。
数字にすると、あっけないくらい素直な仕組みです。古い箱から順番に取り出して、黒字にぶつけていく。 それだけです。
なお、3期・4期のように課税所得がゼロや少額になっても、法人住民税の均等割は変わらずかかります。「所得ゼロ=納税ゼロ」ではないので、資金繰りの表からは落とさないでください。
残高はどこに書いてある?——別表七(一)
さて、いちばん知りたかったところです。
繰越欠損金の残高は、法人税申告書の「別表七(一)」に載っています。様式の名称は年度によって少し変わりますが、「欠損金の損金算入等に関する明細書」といった名前の1枚です。申告書の控えをめくっていけば、必ず綴じられています。
この1枚には、こんなことが書かれています。
- どの事業年度に生じた欠損金か(発生年度)
- その年度の欠損金額
- 当期に控除した金額
- 翌期に繰り越す金額(=これが残高)
つまり、過去の欠損金が発生年度ごとに一覧になっている表です。ここを見れば、「いつの赤字が、あといくら残っていて、いつ期限が来るのか」が全部分かります。
自分用に、1枚だけ作っておく
とはいえ、毎回ぶ厚い申告書の控えを引っ張り出すのは大変です。別表七(一)を見ながら、自分用の一覧を1枚だけ作っておくことをおすすめします。Excelでも手書きでもかまいません。
| 発生した事業年度 | 欠損金額 | これまでに使った額 | 現在の残高 | 使える期限(発生年度+10年) |
|---|---|---|---|---|
| 2020年3月期 | 300万円 | 250万円 | 50万円 | 2030年3月期まで |
| 2021年3月期 | 100万円 | 0円 | 100万円 | 2031年3月期まで |
いちばん右の「期限」の列が、この表の値打ちです。期限が近い残高があると分かっていれば、設備投資のタイミングや、決算賞与を出すかどうかの判断が変わってきます。社長から「今期、これ買っておいたほうがいい?」と聞かれたとき、この1枚があれば話が早くなります。
この表は、決算スケジュールの逆算の資料と同じ場所に置いておくと、翌期の決算のときに迷わず見つけられます。
見落としやすいところ
ここまでが基本です。あと4つだけ、現場でつまずきやすい点を補っておきます。
1. 地方税にも繰越はある。ただし均等割は別
法人税で赤字を使えば、それに連動する法人住民税の法人税割も下がります(法人税額が課税標準だからです)。法人事業税にも、同じように繰越欠損金の制度があります。
ただし、繰り返しになりますが、法人住民税の均等割は赤字でもかかります。ここは繰越欠損金では消えません。詳しくは法人住民税・事業税の基本にまとめています。
2. 消費税とは、まったく別の話
繰越欠損金は法人税(と地方税)の話で、消費税には関係ありません。 赤字でも、課税事業者なら消費税の納税は発生します。
これは資金繰りで痛いところです。「今期は赤字だから納税はない」と思っていたら、消費税の納付書が来て慌てる——中小企業でよくある場面です。法人税・消費税の申告期限と納付の段取りで、税目ごとに分けて押さえておくと安心です。
3. 「繰戻し還付」という別の選択肢もある
赤字を翌期以降に持ち越すのが繰越控除でした。実は、前期にさかのぼって、すでに払った法人税を返してもらうという道もあります。欠損金の繰戻しによる還付です。
青色申告書を提出している中小企業者等が使える制度で、欠損事業年度の前1年以内に開始した事業年度の法人税額が対象になります。ざっくり言えば、「去年黒字で税金を払った。今年は赤字。だったら去年の分を返して」という請求です。
| 繰越控除 | 繰戻し還付 | |
|---|---|---|
| 向き | 赤字を将来の黒字にぶつける | 赤字を過去の黒字にぶつける |
| 効果 | 将来の税金が減る | 今、現金が戻ってくる |
| 主な要件 | 青色申告+連続申告+帳簿保存 | 中小企業者等・期限内の青色申告・還付請求書の提出 など |
資金繰りが厳しい年には、現金が戻ってくる繰戻し還付のほうがありがたい場面もあります。一方で、翌期以降に大きな黒字が見込めるなら、繰越控除で取っておくほうが有利なこともあります。
どちらを選ぶかは、その会社の見通し次第です。 還付請求は期限内申告が前提で、税務署が内容を確認したうえで還付する仕組みになっています。赤字決算になりそうだと分かった時点で、顧問税理士に「繰戻し還付も検討したい」と早めに伝えておくのが、ひとり経理にできるいちばん実のある動きです。決算前の相談の段取りは、決算前に税理士へ渡すものの準備にまとめています。
4. 個人事業と法人では、年数が違う
もし社長が個人事業から法人成りした会社なら、感覚のズレに注意です。個人事業の青色申告で純損失を繰り越せるのは3年で、法人の10年とは違います。そして、個人時代の赤字を、法人に引き継ぐことはできません。人格が別だからです。
「前にやってた店の赤字、まだ使えるよね?」と聞かれたときに、ここを知っていると落ち着いて答えられます。
繰越欠損金チェックリスト
赤字決算になった年と、その後の各期に、上から確認してください。
赤字が出た年に確かめること
- その事業年度は、青色申告書で申告しているか
- 期限内に申告書を提出したか
- 赤字の年のファイルに、「10年保存」の目印を付けたか
- 資金繰りが厳しいなら、繰戻し還付も選択肢に入れて税理士に相談したか
毎期、続けて確かめること
- 赤字の期でも、確定申告書を出しているか(連続提出が切れていないか)
- 別表七(一)の翌期繰越額を、自分用の一覧に書き写したか
- 一覧に、発生年度ごとの使える期限を書いてあるか
- 期限が2年以内に来る残高がないか(あれば社長・税理士と共有)
黒字になった期に確かめること
- 繰越欠損金が、古い年度の分から充当されているか
- 自社は中小法人等か(所得の100%まで使えるか)
- 所得がゼロになっても、法人住民税の均等割を資金繰りに残しているか
- 消費税の納税を、別枠で見込んでいるか
明日やること(まず1つだけ)
全部を一度に確かめようとしなくて大丈夫です。明日やることは、ひとつで十分です。
過去の法人税申告書の控えを出してきて、いちばん新しい年度の「別表七(一)」を開く。
そこに書かれている「翌期繰越額」が、いまの繰越欠損金の残高です。発生年度と金額を、メモ用紙でもExcelでも、1枚に書き写すところまでやってみてください。
書き写しながら、発生年度に10年を足した「期限」の列も埋めておくと、なお良いです。10分ほどで終わりますが、この1枚があるかないかで、来期の決算の景色はずいぶん変わります。
控えが見つからないときは、税理士事務所に「別表七(一)だけPDFでもらえますか」と頼めば、すぐ送ってもらえます。聞くのは、まったく手間をかける話ではありません。
最後に
赤字だった年の決算は、思い出したくないものかもしれません。数字を締めながら、「今年もこうなってしまったか」と落ち込んだ夜があったかもしれない。

でも、その年の赤字は、消えてなくなったわけではありませんでした。きちんと申告書に記録されて、これから会社が黒字になっていく何年かを、静かに支えてくれる。そういう数字として、ちゃんと残っています。
そして、その記録を守ってきたのは、赤字の年もきちんと申告書を出し、帳簿を保存してきたあなたです。誰も褒めてくれない作業だったと思います。でも、それがあったから、この先の黒字が軽くなる。過去のいちばんつらかった年の仕事が、未来を助ける形で効いてくる——経理の仕事には、そういうところがあります。
覚えることは、思ったより少なかったはずです。青色で申告する。毎年続けて出す。書類を10年とっておく。残高は別表七(一)を見る。 この4つだけです。
今日は、申告書の控えを1冊出してくるところまでで十分です。残りは、また一緒に確かめていきましょう。
本記事は一般的な実務情報です。欠損金の繰越控除の要件・繰越期間・控除限度額、中小法人等の判定、繰戻し還付の適用可否、帳簿書類の保存期間の取扱いは、会社の状況や個別の事情、最新の税制改正によって異なります。最終的な判断は、国税庁の最新の案内や、顧問税理士・所轄税務署にご確認ください。
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