
棚卸(実地棚卸)の進め方|数え方と在庫評価の基本
「決算が近づいてきた。そういえば……棚卸、やらなきゃ」。 帳簿の上の在庫の数字と、実際に倉庫にある物の数。頭では「それを合わせる作業」だと分かっていても、いざとなると「どこまで数えるの?」「壊れた在庫はどうするの?」「数えた後、いくらで金額をつけるの?」と、次々に疑問がわいてきますよね。しかも棚卸は年に一度か二度、決算のタイミングにしか出てこないので、去年やったはずなのに手順を思い出せない——ひとりで経理を回していると、この「久しぶりで勝手が戻ってこない感じ」は本当に身近だと思います。
でも、棚卸で手が止まるのは、あなたが不真面目だからではありません。棚卸は、「数える作業(実地棚卸)」と「金額をつける作業(評価)」という性質の違う2つが続けて出てくるうえ、決算の利益に直結するので、慎重になって当然のテーマです。
この記事では、棚卸を「準備 → 数える → 金額をつける → 帳簿に反映する」という順番でほどいていきます。今日ぜんぶを完璧にやりきる必要はありません。まずは全体の地図を頭に入れて、当日バタバタしないための段取りを一緒に整えていきましょう。
結論:棚卸は次の順で進めると迷いが減ります。①準備(対象範囲を決め、倉庫を片づけ、カウント表を用意し、締めのタイミングを決める)。②実地棚卸(実際に数える。二人一致か、数え直しでダブルチェック)。③評価(数えた在庫に金額をつける。中小の実務では原則「最終仕入原価法」が使いやすい)。④帳簿反映(期末在庫を確定させ、売上原価を計算する仕訳を入れる)。動かない在庫・壊れた在庫の評価減や、評価方法の届出は判断が分かれるので、迷う点は顧問税理士に確認しましょう。
そもそも棚卸は何のためにやるの?(10秒でつかむ)
細かい手順に入る前に、目的だけ押さえておきましょう。ここが腑に落ちると、後の作業の意味が分かってきます。
棚卸のいちばんの目的は、「今期の本当のもうけ(利益)」を正しく出すためです。仕入れた物のうち、期末までに売れずに残っている在庫は、まだ「費用」ではありません。売れて初めて費用(売上原価)になります。だから、期末に残っている在庫の金額をきちんと確定させないと、売上原価がずれて、利益もずれてしまいます。
ざっくり式にすると、こうです。
売上原価 = 期首の在庫 + 今期の仕入 − 期末の在庫
つまり、期末の在庫の金額(=棚卸で確定させる数字)が大きいほど、その年の売上原価は小さくなり、利益は大きく見えます。逆に在庫が小さければ利益は小さく見えます。棚卸は、読者を困らせるための儀式ではなく、「残っている物の分だけ、費用を来期に持ち越す」ための、利益計算の土台なのです。
ステップ1:数える前の準備(ここで9割決まる)
棚卸当日にバタバタするかどうかは、準備でほぼ決まります。いきなり数え始めず、まず段取りを整えましょう。

準備でやることは、大きく4つです。
- 数える範囲を決める:自社の倉庫・店舗の在庫はもちろん、預けている在庫(外部倉庫・委託販売分)や、まだ入荷していないが自社のものになっている在庫(未着品)など、「どこまでを自社の在庫として数えるか」を先に決めます。迷うものは印をつけて後で税理士に確認します。
- 倉庫を片づける:数えやすいように整理し、売り物にならないもの(破損・期限切れ・見本品など)は別の場所に分けておきます。ここを分けておくと、後の「評価減」の判断がぐっと楽になります。
- カウント表(数取り用紙)を用意する:品名・場所・数量を書き込める一覧を準備します。会計ソフトや在庫管理システムの在庫リストを印刷して、それに実数を書き込む形が現場では回しやすいです。
- 締めのタイミングを決める:「いつ時点の在庫を数えるか」を決めます。棚卸の最中に入出庫があると数がずれるので、棚卸日は入出庫を止めるか、止められない場合は「何時時点」と区切って、その後の動きは別に記録します。
準備の段階で「これは自社の在庫に入れる?」「これは売り物として数える?」と迷ったら、その場で決めずメモに「要確認」と残しておく——これだけで当日の手が止まりにくくなります。
ステップ2:実地棚卸(実際に数える)
準備ができたら、いよいよ数えます。ここでのコツは、「正確さ」より先に「数え漏れ・二重カウントをなくすこと」を意識することです。
- 場所ごとに、端から順番に数える。棚の「左上から右下へ」など向きを決めておくと、飛ばしや重複が減ります。
- 数え終わった棚には印をつける(付箋やチェックマーク)。「どこまで数えたか」が一目で分かり、二重に数えるミスを防げます。
- できれば二人で、または数え直しでダブルチェックする。ひとり経理でも、数える人と記録する人を分けられないときは、「数える → 別の日か別の順路でもう一度数える」だけで精度が上がります。
- 帳簿在庫との差が大きい品は、その場でもう一度数える。「帳簿100個・実地70個」のような大きな差は、数え間違いか、記帳漏れ・伝票のズレのサインです。あとで原因を追いやすいよう、差があった品には印をつけておきます。
数えている途中で「これは売り物になる?」と迷う在庫(ホコリをかぶった不動在庫、破損品、期限切れなど)が出てきたら、数量は数えたうえで「要評価減チェック」と印をつけておきます。数えること自体はしておき、金額をどうつけるかは次のステップで考える——この切り分けが、当日をスムーズにするコツです。
ステップ3:在庫に金額をつける(評価)
数え終わったら、次は「その在庫に、いくらの金額をつけるか」です。ここが棚卸のもう一つの山ですが、考え方はシンプルです。

在庫金額は、基本的に「数量 × 単価」で出します。数量は数えました。問題は「単価をいくらにするか」で、これを決めるルールが評価方法です。
まずは「原価法」が基本
在庫は原則として、買ったときの値段(原価)をもとに評価します(原価法)。原価法の中にもいくつか単価の拾い方がありますが、代表的なものを挙げます。
- 最終仕入原価法:期末にいちばん近い時期に仕入れた「最後の単価」で全部を評価する方法。計算がとても簡単で、評価方法を税務署に届け出ていない場合の原則(法定評価方法)でもあります。ひとり経理の実務では、これがいちばん扱いやすいことが多いです。
- 総平均法:期中に仕入れた在庫の平均単価で評価する方法。
- 移動平均法:仕入れのたびに平均単価を計算し直していく方法。
- 先入先出法(FIFO):先に仕入れた物から先に売れたと考え、期末在庫は「新しく仕入れた分」の単価で評価する方法。
どの方法を使うかは、本来は税務署への届出で決まります。届け出ていなければ、原則として最終仕入原価法になります。「うちは何法で評価しているか」が分からないときは、過去の申告書や税理士に一度確認しておくと、毎期ブレずに同じ基準で評価できます。
現場のコツ:評価方法は「毎年おなじものを使う」ことが大切です。年によって有利な方法に変えると数字がブレるうえ、原則として勝手には変えられません。まずは自社の既定の方法(分からなければ最終仕入原価法)で統一するのが、間違えないやり方です。
売れ残り・不動在庫の「評価減」は、思い込みで決めない
売り物にならなくなった在庫(破損・品質低下・型落ちで大きく値下がりした等)は、原価より低い時価まで金額を下げられる場合があります(低価法・評価損)。ただし、「動いていないから」というだけで自由に評価を下げられるわけではなく、要件があります。
- 「なんとなく古いから半額にしておこう」といった自己判断での評価減は避ける。
- 破損・型崩れ・災害・品質低下など、評価減できる事実がある在庫だけを「要確認」として分けておく。
- 実際に評価を下げるかどうか・いくら下げるかは、顧問税理士と確認してから反映する。
ステップ2で「要評価減チェック」と印をつけた在庫を、ここで税理士に相談する材料にする——この流れにしておくと、判断を一人で背負わずに済みます。
ステップ4:帳簿に反映する(決算の仕訳)
数量が確定し、金額もついたら、最後に帳簿へ反映します。ここで期末在庫を確定させ、売上原価を正しく計算します。
代表的なのが「三分法」での期末振替です。期首・期末の商品を「繰越商品」と「仕入」の間で振り替えます(金額はあくまで一例です)。
① 期首の在庫を仕入に振り替える
(借)仕入 300,000 /(貸)繰越商品 300,000
② 期末の在庫(棚卸で確定した金額)を資産に振り替える
(借)繰越商品 420,000 /(貸)仕入 420,000
この2本を入れると、「仕入」勘定の残高が今期の売上原価になり、「繰越商品」の残高が期末在庫(次期に持ち越す資産)になります。会計ソフトを使っている場合は、期末棚卸高を入力すれば自動でこの振替を作ってくれることが多いので、まずは確定した期末在庫の金額を正確に入れることに集中すれば大丈夫です。
「仕訳の形まで完璧に覚えなきゃ」と気負わなくても、確定した期末在庫の金額を正しくソフトに渡すところまでできていれば、実務としては十分に前に進んでいます。
具体例で通してみる
言葉だけだとイメージしづらいので、小さな例で最初から最後まで通してみましょう。
- あるお店の商品A:実地棚卸で数えたら 80個 残っていた。
- 直近(期末近く)の仕入単価:1,200円。
- 評価方法:最終仕入原価法(届出なしの原則)。
期末在庫(商品A)= 80個 × 1,200円 = 96,000円。 これを他の商品の在庫金額と合計したものが、期末の棚卸高になります。仮に全商品の期末在庫合計が420,000円だったなら、ステップ4の②で「繰越商品 420,000」として資産に振り替え、その分だけ今期の売上原価から差し引かれる——という流れです。
こうして1品を通してみると、棚卸が「数える」→「単価をかける」→「合計して帳簿に渡す」という、順番に作業を積むだけのものだと見えてきます。最初の1品さえ通せれば、あとは同じことのくり返しです。
ここを間違えると、何が変わる?
期末在庫の金額は、その年の売上原価と利益、そして税金に直結します。在庫を多く計上すれば利益は大きく(税金も大きく)、少なく計上すれば利益は小さく見えます。だからこそ、数え漏れ・二重カウント・単価の取り違えがあると、決算の数字がずれてしまいます。
ただ、これは「読者ひとりで一円のズレもなく完璧に当てる」試験ではありません。大切なのは、数え漏れを防ぐ順路と印、そして迷う在庫に「要確認」の印を残しておくこと。日々ではなく年に一度の作業だからこそ、判断に迷うところは無理に自己完結せず、税理士と一緒に整えれば大丈夫です。完璧を最初から目指すより、確認すべき場所が分かっている状態を作るほうが、ずっと現実的で安全です。
棚卸のチェックリスト
時間がない現場向けに、まずは「最低ライン」から。上から順に進めます。
最低ライン(必須4点)
- 範囲を決めた(自社倉庫・預け在庫・未着品など、どこまで数えるか)
- 数え漏れ・二重カウントを防ぐ順路と印で実地棚卸をした
- 数量 × 単価で在庫金額を出した(単価の拾い方=評価方法を統一)
- 期末棚卸高を確定し、会計ソフト/仕訳に反映した
優先順位
- 上の4点 → 帳簿在庫との大差の品を再カウント → 不動・破損在庫の「要評価減チェック」 → 税理士確認フラグ付け
代替(時間がないとき)
- 在庫管理システムの理論在庫を印刷し、それに実数を書き込む形で数える。差が出た品だけ深追いする
免除条件(チェックを省ける場面)
- 在庫をほとんど持たないサービス業などで、期末在庫が明らかに軽微 → 範囲確認だけで簡略化(それでも「本当に無いか」は一度確認)
- 評価方法を税務署に届け出ていない → 迷わず最終仕入原価法でよい(原則がこれ)
注意喚起ポイント
- 「動いていないから」だけで自己判断の評価減をしない(要件と税理士確認)
- 評価方法は毎年おなじものを使う(勝手に変えない)
- 棚卸中の入出庫は止めるか、時点を区切って別に記録する
- 帳簿と大きく差がある品は、記帳漏れ・伝票ズレのサイン。原因の印を残す
明日やること(まず1つだけ)
棚卸の全部を今日イメージしきろうとすると、それだけで気が重くなります。 明日やることは、「去年の棚卸表(またはカウント表)を引っぱり出して、今年の棚卸日をカレンダーに1つ置く」だけで十分です。日程が決まれば、「その日は入出庫を止められるか」「誰かに数えを手伝ってもらえるか」といった準備が、自然と前に進み始めます。
もし「これ、自社の在庫に入れる?」「この評価方法で合ってる?」と少しでも引っかかったら、その場で結論を出さず、メモに「要確認」と書いておく。それだけで、決算直前に慌ててすべてを見直す作業が、確実にひとつ減ります。
最後に
棚卸は、数えて、金額をつけて、帳簿に返す——年に一度しか出てこないのに、決算の数字を左右する大事な作業です。それをひとりで、ほかの記帳や請求の合間に段取りしているのは、決して簡単なことではありません。

でも、これは一発で正解を当てる試験ではありません。範囲を決め、順路を決めて数え、単価をそろえて金額をつけ、帳簿に返す——その順番を一度通せば、もう「何から手をつければいいか分からない」状態には戻りません。 今日、棚卸の地図がひとつ頭に入ったなら、それはもう「腰の重い作業」が「進められる作業」に変わり始めた証拠です。完璧でなくて大丈夫。今日できたところまでで、十分前に進んでいます。
本記事は一般的な実務情報です。税務・会計の取扱いは個別の事情や最新の通達によって異なります。棚卸資産の評価方法・評価減の要件・届出の取扱いは改正されることもあるため、最終的な判断は国税庁の情報や、顧問税理士・所轄税務署にご確認ください。
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決算までの全体の段取りを整えたいときは、決算までにやることを逆算する決算スケジュールの立て方や、ひとり経理の月次決算チェックリストも、ほかの決算・申告の手順とあわせて記事一覧から少しずつ一緒に整理していきましょう。