初めて給与計算を任され、勤怠データと給与明細を見比べながら総支給からいくら引けば手取りになるのか確かめている経理担当者

給与計算の基本|総支給から手取りまでの流れを順番に

「総支給はわかった。でも、ここから何を、どの順番で引けば手取りになるんだっけ……?」 給与計算を初めて任された月、明細のひな型を前にして手が止まる。社会保険料、雇用保険料、所得税、住民税——名前は知っているけれど、どれをどこから持ってきて、どの順で引くのかがつながらない。1円でもずれたら従業員のお金の話だと思うと、なおさら慎重になりますよね。ひとりで経理を回していると、この「合っているか確かめられない不安」は本当に身近です。

でも、ここで迷うのは、あなたがいい加減だからではありません。給与計算は「4つの異なる制度から金額を集めてきて、決まった順番で引いていく」作業で、それぞれの金額が出てくる場所もタイミングもバラバラだから、最初は地図がないと迷って当たり前なのです。逆に言えば、順番と「どこで決まるか」さえ押さえれば、毎月の作業はぐっと落ち着きます

この記事では、総支給から手取りまでの流れを、引く順番にそって一つずつ分解します。今日は全部の金額を自分で計算できるようになる必要はありません。まずは「どの順で・どこから持ってくるか」という地図を、一緒に作っていきましょう。

結論:手取りは、次の引き算で求めます。総支給額 −(①社会保険料 + ②雇用保険料 + ③源泉所得税 + ④住民税)±その他=差引支給額(手取り)。ポイントは順番で、まず総支給を固め、次に社会保険料と雇用保険料(=社会保険料等)を引き、その残りをもとに源泉所得税を求め、最後に役所から通知される住民税を引きます。それぞれの料率や金額は会社が勝手に決めるものではなく、年金機構・協会けんぽ(または健康保険組合)・国税庁・市区町村が決めた表や通知に従います。料率は毎年見直されるため、年度替わりは特に最新の料額表を確認しましょう。

まず全体像:給与計算は「3つのかたまり」でできている

細かい計算に入る前に、明細の構造をざっくり3つに分けて見ておきましょう。ここが頭に入ると、どの数字がどこに効くのかが見えてきます。

総支給額から社会保険料・雇用保険料・源泉所得税・住民税を順番に引いて手取りになる流れを左から右へ示した図
総支給を固め、社会保険料等を引き、その残りから所得税を計算し、最後に住民税を引く

給与計算とは、つまり「支給を固めて、控除を順番に引く」作業です。難しく見えるのは、控除それぞれの金額を別々の場所から持ってこないといけないから。だから次は、引く順番にそって一つずつ見ていきます。

ステップ1:総支給額を固める(足す側を確定)

すべての計算は総支給から始まります。ここがずれると後ろが全部ずれるので、最初に丁寧に固めます。

  1. 基本給を確認する(雇用契約・賃金台帳のとおりか)。
  2. 固定の手当を足す(役職手当・資格手当・住宅手当など、毎月決まっているもの)。
  3. 変動する手当を足す(残業手当・休日出勤手当・遅刻早退の控除など、その月の勤怠で変わるもの)。
  4. 通勤手当を足す。

ここで一つだけ覚えておきたいのが、通勤手当の「非課税」という考え方です。通勤手当は、一定額まで所得税がかからない(非課税)扱いになります。総支給には含めますが、後で所得税を計算するときの「課税対象」からは外す、という二段構えになります。給与ソフトを使っていれば自動で分けてくれますが、手計算のときは「通勤手当は支給には入れて、課税の計算では外す」と覚えておくと混乱しません。

残業代の単価や勤怠の集計に不安があるときは、無理に暗算で進めず、計算根拠(時間数×単価)をメモに残しておきましょう。後から「この月、なんでこの金額だっけ」と聞かれたときに、自分を助けてくれます。

ステップ2:社会保険料を引く(健康保険・厚生年金)

総支給が固まったら、最初に引くのが社会保険料です。ここでいちばん大事なのは、社会保険料は「その月の給料の額」から直接計算するのではないということです。

社会保険料(健康保険・厚生年金保険)は、「標準報酬月額」という、いわば"その人の給料のランク"をもとに決まります。このランクは、入社時や毎年の定時決定(算定基礎届)で決まり、原則1年間は固定です。だから毎月の残業で総支給が上下しても、社会保険料は基本的に同じ額になります(大きな変動があると随時改定で見直されます)。

実務での求め方はシンプルです。

  1. その従業員の標準報酬月額を確認する(算定基礎届の控えや、年金機構の決定通知で分かります)。
  2. 協会けんぽ(または加入している健康保険組合)の保険料額表を開く。
  3. 標準報酬月額の行を見て、健康保険料(本人負担分)厚生年金保険料(本人負担分)を読み取る。

社会保険料は会社と本人が半分ずつ負担(労使折半)します。給与から引くのは、あくまで本人負担分です。料額表には「全額」と「折半額」が並んでいるので、引くのは折半額のほうだと意識しておきましょう。40歳以上の人は介護保険料も上乗せされます。料率や額表は毎年・年度途中にも改定されるため、「いつ時点の表か」を必ず確認してください。

標準報酬月額の決め方そのものは奥が深いところです。とくに随時改定(給与が大きく変わったときの見直し)や、入社・退社した月の社会保険料・雇用保険料・住民税の特殊な扱いは、この記事の範囲を超えます。新しく入った人や給与が大きく変わった人の社会保険料は、自己判断で抱え込まず、年金事務所や顧問社労士に「この人の標準報酬はこれで合っていますか」と一度確認しておくと安心です。迷ったら早めに相談、で大丈夫です。

ステップ3:雇用保険料を引く(こちらは毎月の総支給ベース)

次に雇用保険料です。社会保険料と混同しやすいのですが、計算の土台がちがいます。

雇用保険料は、標準報酬月額ではなく、その月の総支給額(賃金総額)×雇用保険料率で計算します。つまり、残業が多くて総支給が増えた月は、雇用保険料もその分だけ増えます。ここが社会保険料との大きな違いです。

「社会保険料はランク(標準報酬)から、雇用保険料はその月の総支給から」——この対比だけ覚えておくと、毎月どの数字を見ればいいか迷わなくなります。

ステップ4:源泉所得税を引く(残額×税額表)

社会保険料と雇用保険料を引いたら、ようやく所得税の計算です。所得税は、総支給そのものではなく、社会保険料等を引いたあとの金額をもとに求めます。順番が大事な理由がここにあります。

手順は次のとおりです。

  1. 課税対象額を出す:総支給額 −(非課税の通勤手当)−(社会保険料+雇用保険料)。この「社会保険料等控除後の金額」が、税額表を引くときの基準になります。なお、ここを手で計算するのは「どこから来た数字か」を理解するためで、ふだんは給与ソフトが自動で出してくれます。手計算でなければ、ソフトの「社会保険料等控除後の課税対象額」欄をそのまま見れば大丈夫です。
  2. 国税庁の「源泉徴収税額表(月額表)」を開く。
  3. 課税対象額の行と、扶養親族等の数の列が交わるところの金額を読み取る。これがその月の源泉所得税です。

ここで効いてくるのが、従業員から提出してもらう「扶養控除等(異動)申告書」です。これが出ている人は税額表の「甲欄」、出ていない人は「乙欄」で見るため、同じ給料でも引く額が変わります。扶養親族の数も申告書で確認します。入社時に申告書をきちんと回収しておくことが、毎月の正確な計算の土台になります。

源泉所得税は「その月だけで税金を確定するもの」ではなく、年末調整で1年分を精算する前提の仮の前払いです。月々で多少の過不足が出るのは前提なので、「ぴったり当てなきゃ」と気負いすぎなくて大丈夫。まずは正しい欄・正しい行を引くことに集中しましょう。

ステップ5:住民税を引く(自分で計算しない・通知のとおり引く)

最後が住民税です。ここは安心してください。住民税は、自分で計算しません。

住民税(特別徴収)は、毎年5〜6月ごろに市区町村から会社あてに「特別徴収税額の決定通知書」が届きます。そこに「この従業員は6月にいくら、7月以降は毎月いくら引いてください」という金額が、12回分まで書かれています。給与計算では、その通知のとおりの金額を引くだけです。

「計算しなくていい代わりに、通知の金額を正しく転記する」——住民税はこの一点に尽きます。

ここまでを早見表で整理

4つの控除は、何をもとに決まるかどこで確認するかがそれぞれ違います。混乱したら、この表に戻ってきてください。

控除項目何をもとに決まるかどこで確認するか確認・相談先
健康保険・厚生年金(社会保険料)標準報酬月額(ランク)協会けんぽ/健保組合の保険料額表年金事務所・社労士
雇用保険料その月の総支給額(賃金総額)× 料率厚労省公表の雇用保険料率労働局・社労士
源泉所得税社会保険料等控除後の金額 + 扶養の数国税庁の源泉徴収税額表(月額表)税務署・税理士
住民税(特別徴収)市区町村が計算済み特別徴収税額の決定通知書市区町村の課税課

こうして並べると、社会保険料だけ「その月の給料」ではなくランクで決まること、住民税だけ自分で計算しないことが、はっきり見えてきます。この2つの「例外」を押さえるのが、給与計算に慣れる近道です。

計算例:ひとつ通して追ってみる

数字でひと通り流れを追うと、順番の意味が腹落ちします。以下の控除額は「桁感」を示すための仮の数字で、実際の料率・税額はあなたの会社の標準報酬や最新の表で必ず変わります。「うちの数字と合わない」のは当たり前なので、金額そのものではなく引く順番だけを追ってください。

差引支給額(手取り)= 300,000 −(43,000+1,800+5,000+12,000)= 238,200円

ポイントは、所得税を計算する前に社会保険料等を引いているところ(課税対象額=245,200円)です。順番を逆にすると所得税が変わってしまうので、「社会保険料等→その残りで所得税」の流れは崩さないようにします。

よくあるつまずきポイント

毎月の作業で「あれ?」となりやすいところを、先回りで挙げておきます。

どれも「知らなかったから」起きるもので、あなたの注意不足ではありません。一度地図を持てば、同じ場所で止まらなくなります。

給与計算の月次チェックリスト

「毎月、全員ぶん、全項目を上から順に」とやると、人数が多い月や繁忙期はそれだけで潰れます。そこで3段階に分けました。まず最低ラインの3点だけを全員ぶん確認すれば、給与計算の芯は外しません。あとは「該当者がいる月だけ」「年に一度だけ」のものです。

【最低ライン・これだけは全員必須】

ソフトを使っていれば、上の3点が合っていれば中身の計算はおおむね追えています。手計算の人や、不安なときだけ下の項目もたどってください。

【該当者がいる月だけ】

【年に一度・年度替わりだけ】

明日やること(まず1つだけ)

全部を一度に完璧にしようとすると、それだけで気が重くなります。 明日やることは、「直近の給与明細を1人分だけ取り出して、控除欄を上の早見表の順番(社会保険料→雇用保険料→源泉所得税→住民税)に並べ替えて確認する」だけで十分です。

それぞれの金額が「どこから来た数字か」を一つずつ確かめてみる。標準報酬月額の表か、雇用保険料率か、税額表か、住民税の通知か。1人分をたどり切れたら、給与計算の地図はもうあなたの中にできています。あとは毎月、同じ道を歩くだけです。

最後に

給与計算は、4つの制度から数字を集めて、決まった順番で引いていく——その一つひとつを「これで合っているかな」と確かめながら進める、静かで気をつかう仕事です。従業員のお金に直結するからこそ、ひとりで背負いながら毎月きっちり回しているのは、本当に大変なことだと思います。

給与計算の控除を順番どおりに引き終え、明細と振込額が一致して落ち着いた表情のひとり経理の担当者

でも、これは「一発で全部覚える試験」ではありません。順番を知って、どこから来た数字かを確かめる。その流れさえ身につけば、毎月の計算はもう怖くありません。 今日、総支給から手取りまでの地図がひとつ頭に入ったなら、それはもう「固まる作業」が「進められる作業」に変わり始めた証拠です。完璧でなくて大丈夫。今日たどれたところまでで、十分前に進んでいます。

本記事は一般的な実務情報です。社会保険料率・雇用保険料率・税額表は毎年見直され、取扱いも個別の事情で異なります。最終的な判断は、国税庁・日本年金機構・お住まいの市区町村の情報や、顧問税理士・社会保険労務士にご確認ください。

毎月の経理の段取り全体を整えたいときは、ひとり経理の月次決算チェックリストもあわせてどうぞ。ほかの実務の手順も、記事一覧から少しずつ一緒に整理していきましょう。

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