
入社時の手続き|集める書類と社会保険・雇用保険の資格取得を期限順に
「来月から一人入ってもらうことになったから、よろしくね」
社長にそう言われて、席に戻って、まず思うのは「おめでとうございます」よりも先に——「で、私は何を集めればいいんだっけ」でした。
年金事務所。ハローワーク。マイナンバー。扶養控除等申告書。年金手帳……いや、いまは年金手帳じゃなかったような。前に人が入ったのは3年前で、そのときのメモは、たぶんどこかのフォルダにあります。たぶん。
ひとりで経理を回していると、この「数年に一度しか来ない手続き」がいちばん重く感じます。毎月の記帳や給与計算なら手が覚えているのに、入社の手続きだけは毎回ゼロから思い出すことになるからです。しかも今回は、相手が新しく仲間になる人。最初の給与で間違えるわけにはいかない、という気持ちもあります。
でも大丈夫です。入社の手続きは、覚えることが多いように見えて、実際は期限が3つ並んでいるのと、書類を数枚集めるだけでした。今日はその並びを、一緒に頭の中に置いていきましょう。
結論:入社の手続きは、期限が3つだけ
先に全体像です。入社が決まったら、この3つをカレンダーに置きます。
| いつまで | 何を | どこへ |
|---|---|---|
| 入社日から5日以内 | 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届 | 日本年金機構(事務センター/年金事務所) |
| 入社日の属する月の翌月10日まで | 雇用保険 被保険者資格取得届 | ハローワーク |
| 最初の給与を支払う日の前日まで | 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を本人から回収 | どこにも出さない(自社で保管) |
3つ目だけ、少し性格が違います。提出先がありません。本人から受け取って、自社で保管しておく書類です。「出し忘れた」と焦る種類のものではないのですが、これが無いと最初の給与で引く所得税の額が変わってしまうので、期限として並べています。
そして、この3つとは別に、入社日までに済ませておくものがひとつあります。労働条件の明示(労働条件通知書)です。これは経理ではなく総務の仕事、という会社もありますが、ひとり経理だと結局まわってくることが多いので、あとで触れます。

以下、ひとつずつ見ていきます。全部を今日読み切らなくても大丈夫。入社日が近いものから読めば十分です。
① 社会保険:入社日から5日以内
いちばん期限が短いのがここです。だから、いちばん先に手をつけます。
提出するのは「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」。提出先は日本年金機構(事務センターまたは管轄の年金事務所)で、健康保険組合に加入している会社は組合にも届け出ます。電子申請(e-Gov)でも紙でも構いません。
資格取得日は「入社日」
退職のときは「退職日の翌日」がややこしいポイントでしたが、入社は素直です。資格取得日=実際に働き始めた日(入社日)。試用期間中でも、加入の対象になる働き方であれば入社日から加入します。「試用期間が明けてから」ではありません。
なお、内定日でも、雇用契約書を交わした日でもなく、働き始めた日です。入社日が月の途中でも構いません。
そもそも加入するのは誰か
正社員として迎える人なら、原則そのまま加入対象です。迷うのは、パート・アルバイトで来てもらうときです。
- 週の所定労働時間と月の所定労働日数が、正社員の4分の3以上ある人 → 加入します。
- 4分の3未満でも、一定の条件(週の所定労働時間が20時間以上、所定内賃金が月8.8万円以上、2か月を超える雇用の見込み、学生でない)を満たし、かつ自社が適用拡大の対象となる企業規模であれば加入対象になります。
この「企業規模」の線引きは、段階的に広がることが決まっています。数年前の感覚のまま「うちは小さいから関係ない」と判断すると、あとから遡って加入、ということになりかねません。自社が対象かどうかは、日本年金機構や年金事務所の最新の案内で一度だけ確認しておくと安心です。一度確認すれば、次に人が入るときは同じ基準で判断できます。
つまずきやすいのは「標準報酬月額」
届出でいちばん迷うのが、報酬月額の欄です。まだ一度も給与を払っていない人の「報酬」を、どう書けばいいのか。
ここは資格取得時決定といって、これから支払う見込みの額を書きます。実績がないのだから、見込みで構いません。含めるのはこんな内訳です。
- 基本給
- 役職手当・資格手当・住宅手当など、毎月決まって支払うもの
- 通勤手当
- 残業代など変動するもの → 同じ仕事をしている人の実績などから、見込み額を入れる
いちばん抜けやすいのが通勤手当です。所得税では一定額まで非課税なので、つい「給与ではない」という感覚になりますが、社会保険では報酬に含めます。ここを落とすと標準報酬月額の等級がひとつ下にずれて、あとで訂正することになります。
もうひとつ。6か月分の定期代をまとめて渡す会社なら、1か月あたりに割った額を加えます。6か月分をそのまま足すのではありません。通勤手当まわりの考え方は、通勤手当の非課税限度額にも整理してあるので、迷ったら並べて見てください。
ここで決まった標準報酬月額は、原則として次の定時決定(算定基礎届)まで使い続けます。最初の見込みが実態と大きく違うと、しばらく合わない保険料を引き続けることになります。時間をかける価値があるのは、この欄です。
扶養家族がいるなら、同時に
配偶者やお子さんを扶養に入れる場合は、資格取得届と一緒に「健康保険 被扶養者(異動)届」を出します。配偶者が20歳以上60歳未満なら、同じ用紙で「国民年金第3号被保険者関係届」も兼ねます。
このとき、続柄や収入を確認する書類(続柄の確認は戸籍謄本など、収入の確認は課税証明書など)を求められることがあります。ただし、マイナンバーを届出に記載していれば省略できる場合があります。何を添えるかは加入先(協会けんぽ/健康保険組合)の案内が基準になるので、初回だけ確認しておけば以降は迷いません。
「あとから出せばいいか」と後回しにすると、その間そのご家族は保険証の代わりになるものがない状態になります。本人にとっていちばん切実なのがここなので、資格取得届と同時に出すのがいちばん親切です。
② 雇用保険:入社日の属する月の翌月10日まで
次はハローワークです。提出するのは「雇用保険 被保険者資格取得届」。期限は、資格取得日(入社日)の属する月の翌月10日まで。社会保険の5日以内に比べると、少し余裕があります。
加入するのは「週20時間以上・31日以上の見込み」
雇用保険は、社会保険とは別の基準です。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 31日以上、引き続き雇用される見込みがある
この2つを満たせば加入します。社会保険には入らない働き方でも雇用保険には入る、という組み合わせは普通にあるので、それぞれ別々に判定すると覚えておくと混乱しません。
なお、この「週20時間以上」の線については、対象を広げる法改正がすでに決まっており、施行を待っている状態です。施行の時期が近づいたら、そのときの厚生労働省・ハローワークの案内を確認してください。いま入社する人の判定は、上の2つで大丈夫です。
「雇用保険被保険者証」を持ってきてもらう
届出には雇用保険被保険者番号を書きます。この番号は、前の会社で加入していればその人の一生の番号として引き継がれます。転職のたびに変わるものではありません。
だから、入社時に「雇用保険被保険者証(前の会社から渡されているはずの、細長い紙)を持ってきてください」と伝えておきます。前職の源泉徴収票と一緒に頼むと、本人も探しやすくなります。
見つからない、という返事が来ても慌てなくて大丈夫です。前職の会社名と在籍期間がわかれば、ハローワークが調べてくれます。新卒など初めて働く人なら、そもそも番号はありません。空欄で出せば、新しい番号が付きます。
番号が2つできてしまうと(前職分と、新しく付いた分)、あとで統合の手続きが要ります。手間としては大きくないのですが、最初に「前職ありますか」と一言聞いておくだけで避けられます。
③ 扶養控除等申告書:最初の給与を支払う前に
3つ目は、どこにも提出しない書類です。でも、最初の給与の手取りを左右するという意味では、いちばん実務に直結します。
「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を、本人に書いてもらいます。年末調整のときに毎年集めているあの書類の、入社版です。
なぜ最初の給与の前なのか
給与から引く所得税(源泉所得税)の額は、源泉徴収税額表という表を見て決めます。この表には「甲欄」と「乙欄」があり、どちらを使うかが、この申告書の有無で決まります。
- 申告書の提出あり → 甲欄(扶養親族の人数に応じた、通常の税額)
- 申告書の提出なし → 乙欄(甲欄よりかなり高い税額)
つまり、回収が間に合わないと、最初の給与だけ所得税が高く引かれることになります。年末調整や確定申告で最終的には精算されるので損得の問題ではないのですが、新しい職場の初めての給与明細で「思ったより少ない」となるのは、お互いに気持ちのいいものではありません。
入社日に、他の書類とまとめて書いてもらう。これがいちばん確実です。
掛け持ちの人は「乙欄」のまま
ひとつだけ例外があります。この申告書は、同時に2か所以上へ出すことはできません。他社で働いていて、そちらへ申告書を出している人(副業・かけもちの人)は、自社では乙欄で計算します。
「出してもらえませんでした」ではなく「他社に出しているので、うちは乙欄」。そう理解しておくと、本人に確認するときの聞き方も変わります。扶養と控除の考え方そのものは、扶養控除・配偶者控除の確認ポイントにまとめてあります。
入社日までに:労働条件の明示と、法定三帳簿
役所に出す3つとは別に、入社日までに整えておくものがあります。ここは経理の仕事の範囲外に見えて、ひとり経理だと結局まわってくる部分です。
労働条件通知書
労働条件は、雇い入れのときに書面(本人が希望すればメール等でも可)で明示することが労働基準法で決まっています。契約期間、就業場所、仕事の内容、始業・終業時刻、休日、賃金、退職に関する事項などです。
ここは近年ルールが追加されていて、いまは就業場所と業務の「変更の範囲」(将来配置される可能性の範囲)も明示することになっています。有期契約の人には、更新の上限の有無や、無期転換を申し込める機会などの明示も要ります。
数年前のひな形をそのまま使い回すと、この追加分が抜けます。前回の入社が数年前なら、様式を一度アップデートしておくのがおすすめです。厚生労働省がモデル様式を公開しているので、そこから取ってくるのがいちばん早い方法です。
法定三帳簿
もうひとつ、会社として備えておく3つの帳簿があります。
| 帳簿 | 何を書くか |
|---|---|
| 労働者名簿 | 氏名、生年月日、住所、従事する業務、雇入年月日など |
| 賃金台帳 | 支給額、労働時間数、控除額など(給与計算のたびに記録) |
| 出勤簿等 | 労働日数、労働時間の記録 |
賃金台帳は、給与ソフトを使っていれば自動的にできています。忘れやすいのは労働者名簿のほうです。入社時に一度作れば、あとは住所変更などのときに直すだけなので、入社手続きのタイミングで作ってしまうのが結局いちばん楽です。
入社時に集める書類(本人にお願いするもの)
ここまでの手続きに必要なものを、本人にお願いする形で並べ直します。このリストをそのままメールに貼れるようにしてあります。
| 集めるもの | 何に使うか | 補足 |
|---|---|---|
| マイナンバー(本人・扶養家族の分も) | 社会保険・雇用保険の届出、源泉徴収票 | 番号確認と本人確認が必要 |
| 基礎年金番号通知書(または年金手帳) | 資格取得届の基礎年金番号 | 年金手帳は新規発行が終了し、いまは基礎年金番号通知書 |
| 雇用保険被保険者証 | 雇用保険の被保険者番号 | 前職がある人のみ。無くてもハローワークで確認可 |
| 扶養控除等(異動)申告書 | 最初の給与の所得税(甲欄) | 自社で保管。提出先なし |
| 前職の源泉徴収票 | 年末調整での合算 | 同じ年に前職がある人のみ |
| 給与振込先の口座情報 | 給与の振込 | 通帳やアプリ画面の写しがあると確実 |
| 通勤経路・通勤手当の申請 | 通勤手当の額、標準報酬月額 | 定期代の区間と金額まで |
| 被扶養者の続柄・収入がわかる書類 | 健康保険の被扶養者(異動)届 | 扶養に入れる人がいる場合 |
住民税は、原則として入社時に手続きは要りません。前職から引き継ぐ場合や、本人が普通徴収(自分で納付)から特別徴収(給与天引き)へ切り替えたい場合だけ、市区町村へ切替の届出を出します。放っておいても本人が納付書で納められるので、慌てなくて大丈夫です。
最初の給与で迷いやすいところ
書類を出し終えたあと、次に来るのが最初の給与計算です。ここで手が止まりやすいのは2つだけです。
社会保険料は「最初の給与では引かない」ことが多い
健康保険・厚生年金の保険料は、資格取得日の属する月から、月単位でかかります。ただし、いつ給与から引くかは別の話です。
多くの会社は「前月分の保険料を、今月の給与から引く」(翌月控除)という運用をしています。この場合、8月に入社した人の8月分の保険料は、9月の給与から引くことになります。つまり、最初の給与では社会保険料を引かない——これが正しい姿です。
「あれ、引き忘れたかな」と不安になるところですが、自社が翌月控除なら、それで合っています。当月控除の会社なら最初の給与から引きます。自社がどちらかを一度確認しておくと、以後ずっと迷いません。この控除タイミングの考え方は、社会保険料・雇用保険料の控除と納付のタイミングで図にしてあります。
雇用保険料は、最初の給与から引く
こちらは単純です。雇用保険料は「その月に支払う賃金」に料率をかけて計算するので、最初の給与から通常どおり控除します。社会保険料と扱いが違うので、ここだけ分けて覚えておいてください。
あとは、入社月の給与を日割りにするかどうか。これは法律ではなく自社の給与規程で決まっている部分です。規程を確認して、そのとおりに計算すれば大丈夫です。全体の流れをもう一度なぞりたいときは、給与計算の基本|総支給から手取りまでの流れからどうぞ。
入社手続きチェックリスト
そのままコピーして使えるようにしておきます。
入社日までに
- 労働条件通知書を用意したか(就業場所・業務の変更の範囲まで書いてあるか)
- 本人に持ってきてもらう書類を案内したか(上の表をメールで送る)
- 労働者名簿を作ったか
入社日〜5日以内
- 健康保険・厚生年金の資格取得届を提出したか(資格取得日=入社日)
- 報酬月額に通勤手当を入れたか(6か月定期なら1か月あたりに割ったか)
- 扶養家族がいるなら被扶養者(異動)届を一緒に出したか
入社月の翌月10日まで
- 雇用保険の資格取得届を提出したか
- 雇用保険被保険者番号を前職の被保険者証で確認したか
最初の給与の前に
- 扶養控除等(異動)申告書を回収したか(無ければ乙欄で計算)
- 給与の振込先口座を登録したか
- 社会保険料は自社の運用(翌月控除か当月控除か)どおりか
- 雇用保険料を、支払う賃金にかけて控除したか
- 入社月の給与の日割りを、規程どおりに計算したか
そのあと
- 保険証(または資格確認書・資格情報のお知らせ)が届いたら本人へ渡したか
- 会計ソフト・勤怠・各種ツールのアカウントを作ったか
- 年末調整の対象者リストに追加したか(前職の源泉徴収票も預かる)
明日やること(まず1つだけ)
全部をいっぺんに整えようとすると、それだけで気が重くなります。明日やることは、ひとつで十分です。
上の「集める書類」の表を、自社のメールのひな形として1通、下書きに保存しておく。
宛先だけ空けて、件名は「ご入社にあたりお持ちいただくもの」。次に人が入るときは、これを開いて送るだけになります。「まず何から」で止まる時間が、まるごと消えます。
余力があれば、そこに自社だけの事情(制服のサイズ、駐車場の申請、社員証の写真など)を足しておいてください。会社ごとに違うのはそこだけなので、一度書けば、あとはずっと使えます。年間の段取り全体を見直すときは、経理の年間スケジュールと一緒に置いておくと見つけやすくなります。
最後に
入社の手続きは、少し不思議な仕事です。数年に一度しか来ないのに、間違えると相手にすぐ伝わってしまう。しかも、迎える準備の気持ちと、期限のある書類を淡々と処理する作業を、同時にやることになります。

それでも、覚えることは思ったより少なかったはずです。5日以内、翌月10日、最初の給与の前。この3つを上から潰していけば、抜けません。あとは、標準報酬月額に通勤手当を入れることだけ、頭の片隅に置いておけば十分です。
新しく入る人にとって、最初に受け取る保険証と、最初の給与明細は、その会社で働き始めた実感そのものです。それが期限どおりに、説明つきで届くこと。それは、その人が最初に受け取る「ここは大丈夫そうだ」という感覚でもあります。
数年に一度の手続きを、入社日の前に調べているあなたは、もうその準備ができています。細かい数字は覚えなくて大丈夫。困ったらまた、この3つの並びを見に来てください。ここで一緒に確かめられます。
本記事は一般的な実務情報です。社会保険・雇用保険の加入要件や届出様式、標準報酬月額の決め方、労働条件の明示事項、源泉徴収税額表の適用は、制度改正や個別の事情によって変わります。最終的な判断は、日本年金機構・厚生労働省(ハローワーク)・国税庁の最新の案内や、顧問税理士・社会保険労務士にご確認ください。
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