
社会保険料・雇用保険料の控除と納付のタイミング|迷わない早見表
「社会保険料って、今月の給与から引くのは……今月分だっけ、それとも先月分だっけ?」 給与計算をひとりで回していると、毎月ここで一瞬手が止まりますよね。おまけに雇用保険料は雇用保険料で、なんだか計算のしかたが違う気がする。引く金額は合っているはずなのに、「そもそもどの月の分を引いているのか」が自分の中で腑に落ちていない——その落ち着かなさは、とても身近だと思います。
でも、ここで迷うのは、あなたがいい加減だからではありません。健康保険・厚生年金と雇用保険では、「いつの分を・いつ引くか」というルールがそもそも違うからです。同じ「給与から引く保険料」なのに動き方がちがうのだから、最初に混乱するのは当たり前なのです。逆に言えば、この“ズレ”をひとつの図で理解してしまえば、毎月の給与計算も、納付のタイミングも、ぐっと落ち着きます。
この記事では、控除のタイミングと納付のタイミングを、保険の種類ごとに分けて整理します。今日は制度を丸暗記する必要はありません。まずは「今月の給与から引いているのは、どっちの月の分か」という一点を、一緒にはっきりさせていきましょう。
結論:控除のタイミングは2種類に分かれます。①健康保険・厚生年金保険料は「前月分」を、当月支給の給与から控除(=翌月控除)。標準報酬月額というランクで金額が決まり、原則1年間は毎月同じ額です。②雇用保険料は「その月の給与総額 × 料率」で、当月分を当月控除。総支給が増えた月は雇用保険料も増えます。納付のタイミングも別で、健康保険・厚生年金は毎月(当月分を翌月末までに納付/口座振替は翌月末に引き落とし)、雇用保険料は預かったあと、労災保険料と合わせて「労働保険料」として年1回の年度更新(毎年6/1〜7/10)でまとめて申告・納付します。40歳以上の人は健康保険料に介護保険料が上乗せされます。料率は毎年見直されるので、年度替わりは最新の料額表を確認しましょう。
いま何が起きているか:控除と納付は「別のタイミング」で動く
細かい手順に入る前に、全体像をざっくりつかんでおきましょう。混乱の正体は、「控除する(給与から引く)タイミング」と「納付する(役所に納める)タイミング」が、保険の種類ごとにバラバラだということです。

- 健康保険・厚生年金保険料:金額は標準報酬月額(その人の給料のランクのようなもの。入社時や毎年の定時決定で決まり、原則1年間は固定)をもとに決まります。控除は前月分を当月の給与から引くのが原則。納付は当月分を翌月末までに、会社が毎月納めます。
- 雇用保険料:金額はその月の給与総額(賃金総額)× 雇用保険料率。控除はその月の分をその月の給与から引きます。納めるのは毎月ではなく、預かった分を労災保険料と合わせて年1回まとめて納めます。
つまり、同じ給与明細に並んでいても、健康保険・厚生年金と雇用保険は「引く月」も「納める頻度」も別々なのです。ここが頭に入ると、「今月引いているのは何の分か」が見えてきます。まずはこの二段構えだけ、置いておけば大丈夫です。
健康保険・厚生年金保険料:前月分を「翌月の給与」から引く
まず、健康保険と厚生年金です。この2つはセットで動くので、まとめて「社会保険料」として見ていきます。いちばん大事なのは、今月の給与から引くのは「先月分」の保険料という点です。
法律上、健康保険・厚生年金の保険料は、前月分を当月の報酬(給与)から控除すると決められています。たとえば「6月分の保険料」は、7月に支払う給与から差し引く、という流れです。だから、入社した人の社会保険料も、入社月の給与ではなく、原則として翌月の給与から引き始めることが多くなります。
金額の求め方はシンプルです。
- その従業員の標準報酬月額を確認する(算定基礎届の控えや、年金機構の決定通知でわかります)。
- 協会けんぽ(または加入している健康保険組合)の保険料額表を開く。
- 標準報酬月額の行を見て、健康保険料(本人負担分)と厚生年金保険料(本人負担分)を読み取る。
社会保険料は会社と本人が半分ずつ負担(労使折半)します。給与から引くのは、あくまで本人負担分です。料額表には「全額」と「折半額」が並んでいるので、引くのは折半額のほうだと意識しておきましょう。40歳以上65歳未満の人は、健康保険料に介護保険料が上乗せされます。
標準報酬月額の決め方そのものは奥が深いところです。とくに毎年7月の定時決定(算定基礎届)や、給与が大きく変わったときの随時改定、入社・退社月の特殊な扱いは、この記事の範囲を超えます。新しく入った人や給与が大きく変わった人の社会保険料は、自己判断で抱え込まず、年金事務所や顧問社労士に「この人の標準報酬はこれで合っていますか」と一度確認しておくと安心です。迷ったら早めに相談、で大丈夫です。
雇用保険料:その月の給与総額から、当月分を引く
次に雇用保険料です。社会保険料と同じ「給与から引く保険料」ですが、計算の土台も引くタイミングもちがいます。
雇用保険料は、標準報酬月額ではなく、その月の給与総額(賃金総額)× 雇用保険料率(労働者負担分)で計算します。しかも、前月分ではなくその月の分をその月の給与から引きます。つまり、残業が多くて総支給が増えた月は、雇用保険料もその分だけ増えます。ここが、毎月ほぼ一定の社会保険料との大きな違いです。
- 計算式:その月の給与総額 × 雇用保険料率(労働者負担分)
- 雇用保険料率は厚生労働省が毎年度公表します。一般の事業と、建設業など一部の事業で率が異なります。
- 通勤手当なども含めた「賃金総額」がベースになります。1円未満の端数処理にはルールがあるため、給与ソフトの設定か、社内のこれまでのやり方にそろえます。
「社会保険料は前月分をランク(標準報酬)で、雇用保険料はその月分を総支給で」——この対比だけ覚えておくと、毎月どの数字を見ればいいか迷わなくなります。
早見表:控除と納付の違いを一枚で
2つの保険は、いつの分を引くか・いつ納めるかがそれぞれ違います。混乱したら、この表に戻ってきてください。
| 項目 | 金額の決まり方 | 給与から引くタイミング | 納付のタイミング | 確認・相談先 |
|---|---|---|---|---|
| 健康保険・厚生年金(社会保険料) | 標準報酬月額(ランク)× 料率・労使折半 | 前月分を当月の給与から(翌月控除) | 毎月(当月分を翌月末まで/口座振替は翌月末引き落とし) | 年金事務所・社労士 |
| 雇用保険料 | その月の給与総額 × 料率(労働者負担分) | 当月分をその月の給与から | 年1回(労災と合わせ年度更新でまとめて) | 労働局・社労士 |
こうして並べると、社会保険料は「前月分・毎月納付」、雇用保険料は「当月分・年1回納付」という、きれいな対比が見えてきます。この違いを押さえるのが、給与計算と納付管理に慣れる近道です。
納付のタイミング:社会保険料は毎月末、労働保険料は年1回
給与から預かった保険料は、会社が本人の代わりに納めます。ここでも、社会保険料と雇用保険料は納め方がちがいます。
健康保険・厚生年金保険料(毎月)
- 日本年金機構から、毎月保険料の納入告知書が届きます(口座振替なら通知)。
- 当月分の保険料を、翌月末日までに納付します。口座振替を利用していれば、翌月末日に自動で引き落としされます。
- 給与から預かった本人負担分に、会社負担分を合わせた全額を会社が納めます。
雇用保険料(労働保険料として年1回)
- 雇用保険料は、労災保険料と合わせて「労働保険料」として納めます。給与から毎月預かってはいますが、役所に納めるのは年1回が基本です。
- その手続きが、毎年6月1日〜7月10日に行う年度更新(前年度の保険料を精算し、当年度の概算保険料を申告・納付する手続き)です。概算保険料が一定額以上なら、3回に分けて納める延納も選べます。
- ちょうど今の時期(7月上旬)は、この年度更新の期限とも重なります。あわせて、社会保険の定時決定(算定基礎届)も7月10日が提出期限なので、給与まわりの手続きが集中しやすい季節です。該当する手続きがある場合は、期限をカレンダーに入れておくと安心です。
「社会保険料は毎月末、雇用保険料はいったん預かって年1回まとめて」——納付のリズムも、この対比で覚えておけば迷いません。
入社・退職・賞与のときの、ちょっとした注意
毎月の定例作業とは別に、人の出入りや賞与のときに迷いやすいポイントを、先回りで挙げておきます。ここは深入りせず、「こういう時は確認する」という目印だけ持っておけば十分です。
- 入社したとき:社会保険料は資格取得した月から発生し、原則は翌月の給与から控除を始めます(前月分を翌月に引くルールのため)。給与ソフトの設定日と、実際に引き始める月がずれていないか確認します。
- 退職したとき:社会保険料は「いつ退職したか」で当月分が発生するかが変わります(月末退職か、月の途中かで扱いがちがう)。最後の給与でどこまで引くか迷ったら、日割りせず、年金事務所や社労士に確認するのが確実です。
- 賞与(ボーナス)のとき:賞与からも社会保険料・雇用保険料を控除します。社会保険料は標準賞与額(賞与額の1,000円未満を切り捨てた額)に料率をかけ、雇用保険料は賞与額に料率をかけます。支給後は賞与支払届の提出も必要です。
どれも「知らないと迷う」もので、あなたの注意不足ではありません。入退社や賞与のタイミングだけ、いつもより一呼吸おいて確認する——それだけで、あとから直す手間がぐっと減ります。
よくあるつまずきポイント
毎月の作業で「あれ?」となりやすいところを、まとめておきます。
- 社会保険料を「今月分」だと思って引いてしまう:健康保険・厚生年金は前月分を翌月控除。今月の給与から引くのは、先月分の保険料です。
- 雇用保険料を毎月一定額だと思っている:雇用保険料はその月の総支給ベース。残業などで給与が増えた月は、雇用保険料も増えます。
- 社会保険料を総支給から計算してしまう:社会保険料は標準報酬月額(ランク)ベース。残業で総支給が増えても、原則その月の額は変わりません。
- 雇用保険料を毎月納めていると思っている:雇用保険料は預かるだけで、納めるのは労働保険料として年1回(年度更新)です。
- 料率を去年のまま使っている:社会保険料率・雇用保険料率は改定されます。年度替わりは最新の額表に差し替えます。
- 入退社月の扱いを自己判断で進めてしまう:資格取得・喪失の月の保険料は迷いやすいところ。不安なら年金事務所・社労士に確認します。
どれも「知らなかったから」起きるもので、あなたの努力不足ではありません。一度、控除と納付のタイミングという地図を持てば、同じ場所で止まらなくなります。
チェックリスト:保険料まわりで確認したいこと
「毎月、全員ぶん、全部を細かく」だと繁忙期に潰れてしまいます。そこでまず毎月の最低ラインを押さえ、あとは「該当する時だけ」「年に一度だけ」に分けました。
【毎月・これだけは確認】
- 健康保険・厚生年金は、前月分を今月の給与から引いているか(引く月がずれていないか)
- 雇用保険料は、その月の給与総額 × 料率で計算されているか
- 社会保険料の納付(翌月末/口座振替)が、期日どおりにできる状態か
【該当する人・月だけ】
- 入社・退社があった月:保険料を引き始める月・引き終える月は合っているか
- 賞与を支給した月:賞与から社会保険料・雇用保険料を控除し、賞与支払届を出したか
- 40歳になった人がいる月:介護保険料が上乗せされ始めているか
【年に一度・年度替わりだけ】
- 社会保険料率・雇用保険料率の改定を、給与ソフトに反映したか
- 労働保険の年度更新(6/1〜7/10)、社会保険の算定基礎届(7/10まで)の手続きを済ませたか
明日やること(まず1つだけ)
全部を一度に完璧にしようとすると、それだけで気が重くなります。 明日やることは、「直近の給与明細を1人分だけ取り出して、社会保険料の欄が“先月分”か、雇用保険料の欄が“今月の総支給ベース”かを、声に出して確認してみる」だけで十分です。
この「引いているのはどっちの月の分か」がはっきりすると、毎月の給与計算の景色が変わります。1人分をたどり切れたら、控除と納付のタイミングの地図は、もうあなたの中にできています。あとは毎月、同じ道を歩くだけです。
最後に
社会保険料も雇用保険料も、従業員から預かった大切なお金を、正しい月に引いて、正しいタイミングで納める——一つひとつ「これで合っているかな」と確かめながら進める、静かで気をつかう仕事です。ルールが保険ごとにちがうなかで、ひとりでこれを毎月回しているのは、本当に大変なことだと思います。

でも、これは「一発で全部覚える試験」ではありません。健康保険・厚生年金は前月分を翌月に、雇用保険料はその月の分をその月に。その“ズレ”を一度つかんでしまえば、毎月の計算も納付ももう怖くありません。 今日、控除と納付のタイミングの地図がひとつ頭に入ったなら、それはもう「なんとなく引く作業」が「わかって進める作業」に変わり始めた証拠です。完璧でなくて大丈夫。今日たどれたところまでで、十分前に進んでいます。
本記事は一般的な実務情報です。社会保険料率・雇用保険料率、資格取得・喪失や納付の取扱いは毎年見直され、個別の事情によっても異なります。最終的な判断は、日本年金機構・厚生労働省(労働局)の情報や、顧問税理士・社会保険労務士にご確認ください。
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