
スキャナ保存の始め方|要件と社内ルールをやさしく整理
「この領収書の山、スマホで撮ってデータにすれば、紙は捨てていいって聞いたけど……本当に捨てて大丈夫なのかな」 引き出しやファイルにたまっていく紙の書類を見て、そう思ったことはありませんか。保管場所は増える一方だし、探すのも大変。でも、いざ「スキャナ保存」を調べると、要件がずらっと並んでいて、それだけで手が止まってしまいますよね。
まず、いちばん肩の力が抜ける話からです。スキャナ保存は「やってもやらなくてもいい」任意の制度です。データで来たものをデータで残す「電子取引」の保存とは違って、こちらは義務ではありません。今までどおり紙で保管し続けても、まったく問題ありません。「紙が減らせたら楽になりそうだな」と思ったときに、はじめて検討すればいいものです。
この記事では、スキャナ保存とは何か、始めるなら最低限どんな要件を満たせばいいのか、そして社内ルール(規程)をどう用意するかを、ひとり経理の現実に合わせて順番に整理します。今日で全部を完璧にしなくて大丈夫。まずは「自分の会社で始める価値がありそうか」を一緒に見極めていきましょう。
結論:スキャナ保存は任意。始めるなら押さえどころは4つです。①紙の書類をスキャン(スマホ撮影も可)してデータで保存し、原本の紙を捨てられる制度、と理解する → ②入力の期限(受け取ってからおおむね2か月+約7営業日以内など)を守る → ③タイムスタンプ、または訂正・削除の記録が残る(=あとで書き換えられない)システムで保存し、取引年月日・金額・取引先で探せるようにする → ④社内ルール(事務処理規程)を用意する(国税庁のひな型を使えばOK)。会計ソフトの証憑保存機能を使うと、②③はまとめて満たしやすくなります。原本を捨てるのは、要件を満たせている確信が持ててから。判断に迷う点は顧問税理士や所轄税務署に確認すると安心です。
そもそもスキャナ保存って、何をする制度?
言葉はかたいですが、やることはシンプルです。紙で受け取った(または紙で作った)請求書・領収書・契約書などを、スキャナやスマホのカメラで読み取ってデータにし、そのデータを正式な保存として認めてもらう——これがスキャナ保存です。
いちばんのメリットは、要件を満たしてデータ化すれば、原本の紙を捨てられること。引き出しにたまる領収書の束や、期末に段ボールへ詰める書類の山を、減らしていけます。探すときも、フォルダやソフトの中でキーワード検索できるようになります。
ここで、電帳法(電子帳簿保存法)の3つの柱を、ひと言で整理しておきます。混同しやすいところなので、自分に関係するのはどれかを見分けられると楽になります。

- 電子帳簿等保存:会計ソフトで作った帳簿などを、データのまま保存する話(任意)。
- スキャナ保存:今回のテーマ。紙で受け取った・作った書類を、スキャンしてデータで保存する話(任意)。
- 電子取引:メールのPDFやネット通販の領収書など、最初からデータでやり取りしたものを、データで残す話(こちらは義務)。
つまり、「最初から紙だったものをデータ化するか」がスキャナ保存、「最初からデータだったものを残す」のが電子取引です。義務なのは電子取引の方で、スキャナ保存はあくまで「やりたければやる」もの。ここを分けて考えると、必要以上に身構えずにすみます。
始める前に:スキャナ保存が向いている人・急がなくていい人
任意の制度なので、「うちは今やるべき?」を先に考えておくと、無駄に頑張らずにすみます。責める話ではなく、向き不向きの整理です。
始める価値が出やすい人
- 紙の領収書・請求書の量が多く、保管場所や探す手間に困っている
- すでに会計ソフトを使っていて、証憑(しょうひょう)の保存機能がある
- 在宅やスマホでの入力を増やして、紙のやり取りを減らしたい
急がなくてもいい人
- 紙の書類がそれほど多くなく、今の保管で困っていない
- まずは義務である電子取引の保存の方を整えたい(優先順位はこちらが先)
もし「電子取引のデータ保存がまだ手つかず」なら、スキャナ保存より先にそちらを整えるのがおすすめです。義務があるのは電子取引の方だからです。電子取引の進め方は電子取引データの保存|結局なにをすればいいかを整理するにまとめてあるので、あわせて確認してみてください。
始めるなら満たす要件(かみくだいて4つ)
「やってみよう」と思ったら、押さえる要件を見ていきます。細かい規定はありますが、ふだんの作業の言葉に置き換えると、大きく4つです。ひとつずつ、あわてず確認していきましょう。
要件1:決められた期限内にスキャンする(入力期間の制限)
書類を受け取ってから、だらだらと時間を空けずにデータ化する、というルールです。方法は主に2つあり、自社に合う方を選びます。
- 速やかに入力:受け取ってから、おおむね7営業日以内にスキャンする。
- 業務サイクル後に速やかに入力:月ごとにまとめて処理するようなやり方。最長でおおむね2か月+約7営業日以内にスキャンする(このやり方を選ぶ場合は、事務処理の規程を定めておくことが前提になります)。
ひとり経理で「月末にまとめて処理したい」なら、後者の業務サイクル方式が現実的です。いずれにしても「ためこみすぎない」のがポイントです。
要件2:一定の画質でスキャンする(見読可能性・解像度)
あとで読み返せる画質でデータ化する、という部分です。目安として、
- 解像度は200dpi以上でスキャンする(スマホのカメラでも、この水準を満たせばOKです)。
- 領収書・請求書・契約書などの重要書類はカラーで読み取る。見積書の控えなど重要度の低い一般書類は、グレースケール(白黒)でもよいとされています。
スマートフォンで撮影して保存する方法も認められています。専用のスキャナがなくても始められるのは、うれしいところですね。
要件3:あとで書き換えられない状態にして、探せるようにする(真実性・検索)
スキャンしたデータが、あとから改ざんされていないと言える状態にする部分です。方法はいくつかあり、どれか1つを満たせば大丈夫です。
- スキャンデータにタイムスタンプを付与する。
- 訂正・削除の履歴が残る、または訂正・削除ができないシステム・クラウドに保存する。
あわせて、税務の確認などで「この書類を見せてください」と言われたときのために、取引年月日・金額・取引先で探せるようにしておきます(日付や金額の範囲指定、項目の組み合わせで探せることが求められます)。会計ソフトの証憑保存機能を使えば、この改ざん防止と検索は、まとめて自動で満たせることが多いです。手作業で始める場合は、ファイル名を 日付_取引先_金額 の形にそろえると探しやすくなります。
要件4:社内ルール(事務処理規程)を用意する
「誰が・いつ・どうスキャンして保存するか」を決めた社内ルール=事務処理規程を用意します。とくに業務サイクル方式で入力する場合は、この規程を定めておくことが前提になります。
「規程づくり」と聞くと身構えますが、ゼロから文章を書く必要はありません。国税庁がスキャナ保存用の規程のひな型(サンプル)を公開しているので、ダウンロードして会社名や運用のしかたを自社に合わせて整えるだけで、ひとまず形は整います。まずはその最小ラインでかまいません。
上の要件は令和5年度の税制改正でいくつか緩和され、始めやすくなっています。ただし書類の種類(重要書類か一般書類か)によって求められる水準が変わり、細かい条件もあります。自社が満たせているかの最終的な確認は、国税庁の最新情報や顧問税理士・所轄税務署に相談すると確実です。
ひとり経理の現実的な進め方(小さく始めて、原本廃棄は最後)
要件が4つと聞くと身構えますが、いきなり全書類を対象にしたり、高価なシステムを入れたりする必要はありません。無理なく始める順番は、こんなイメージです。
- まず会計ソフトの証憑保存機能があるか確認する。あれば、要件2〜3(画質・改ざん防止・検索)の多くをソフト側が満たしてくれます。
- 対象をいきなり全部にしない。たとえば「今月の領収書だけ」など、種類や期間を絞って試す。
- 国税庁の規程のひな型をダウンロードし、自社用に整えて保管する(要件4)。
- しばらく運用してみて、要件をきちんと満たせている確信が持ててから、原本の紙を捨てる。
とくに4つ目が大切です。原本を捨てるのは、いちばん最後。「スキャンして、要件も満たせていて、いつでも読み返せる」と自分で納得できるまでは、紙も一緒に残しておいて大丈夫です。慣れてきたら、少しずつ原本廃棄に進めばいい。焦って捨てて困るより、ずっと安心です。
会計ソフトの証憑保存機能や自動連携について、もう少し全体像を知りたいときは銀行口座・カードの明細を自動連携して記帳を時短するもあわせてどうぞ。
スキャナ保存を始めるチェックリスト(迷ったら上から)
手が止まったとき、上から確認してみてください。全部できていなくても大丈夫。そもそも今やるべきかを確かめる「まず考える」から始めれば十分です。
まず考える(やるかどうか)
- 紙の書類の量や保管の手間に、実際に困っているか
- 義務である電子取引のデータ保存は、先に整えられているか
始めると決めたら(最低ライン)
- スキャン(スマホ撮影可)を、決められた期限内にできる段取りになっているか(要件1)
- 重要書類はカラー・200dpi以上など、読み返せる画質でスキャンしているか(要件2)
- タイムスタンプ/履歴が残るシステムなどで、改ざんできない状態にしているか(要件3)
- 取引年月日・金額・取引先で探せるようにしているか(要件3)
わすれがちな仕上げ
- 事務処理規程(国税庁ひな型でOK)を用意したか(要件4)
- 原本の紙を捨てるのは、要件を満たせた確信が持ててから、にしているか
明日やること(まず1つだけ)
スキャナ保存を、明日いっぺんに始める必要はありません。 明日やることは、「今使っている会計ソフトに、証憑(書類)の保存機能があるかを1つ調べる」——これだけで十分です。
機能があれば、要件の多くはソフトが助けてくれるので、ぐっと現実的になります。なければ、まずは「紙のまま続ける」でまったく問題ありません。任意の制度なので、あなたのペースで、始めたくなったときに始めればいいのです。
最後に

紙の書類がたまっていくのを見ながら、「データにできたら楽になるのに」と思いつつ、要件の多さに手が止まっていた——その気持ちは、ひとりで経理を回していれば自然なものです。でも、スキャナ保存は義務ではありません。焦らなくて大丈夫。
これは「一発で全部データ化する試験」ではありません。まず会計ソフトの機能を確かめる。対象を絞って試す。原本を捨てるのは最後にする。この順番さえ守れば、紙の山は少しずつ、確実に減らせます。 今日、「スキャナ保存は任意で、始めるなら4つを押さえればいい」という地図が頭に入ったなら、それはもう「難しそう」が「順番に進められる」に変わり始めた証拠です。完璧でなくて大丈夫。今日できたところまでで、十分前に進んでいます。
本記事は一般的な実務情報です。電子帳簿保存法(スキャナ保存)の要件・改正内容・書類ごとの取扱いは、個別の事情や最新の制度・通達によって異なります。最終的な判断は国税庁の電子帳簿保存法に関する情報や、顧問税理士・所轄税務署にご確認ください。
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