
返還インボイスとは|返品・値引きで出す書類と1万円未満の免除
入金を確認していたら、請求した金額より少し少ない。明細を見ると「振込手数料はご負担ください」と言われていた分だった。あるいは、納品した商品が1つ返品されてきて、その分のお金を戻すことになった——。
そんなとき、ふと頭に浮かぶのが「これ、返還インボイスっていうのを出さないといけないんだっけ?」という不安ですよね。インボイス制度が始まってから、請求書のまわりに新しい書類の名前がいくつも増えました。全部を正確に覚えている人のほうが少ないと思います。
大丈夫です。返還インボイスは、出す場面が決まっていて、しかも実務でいちばん多い「数百円の値引き」は交付が免除されている書類です。一度この線引きを持ってしまえば、次からは「これは出す・これは要らない」を数秒で判断できます。この記事では、返還インボイスをどんなときに出すのか、何を書くのか、そして1万円未満の免除をどう使うのかを、順番に一緒に見ていきましょう。
結論:返還インボイス(適格返還請求書)は、いったん売った分について返品・値引き・割戻しなどでお金を戻すときに、売り手が買い手に交付する書類です。ただし、返す金額が税込1万円未満なら交付は不要(期限のない恒久的な措置)。だから振込手数料の数百円を売上値引にする場面では、原則として出す必要はありません。1万円以上を返すときは、登録番号・返品日・品名・返還額などを書いた書類を交付します。今日はまず、直近の返品・値引きを1件だけ思い出して「税込1万円以上だったか」を確かめてみてください。なお個別の取扱いは取引の内容によって変わるため、判断に迷う取引は顧問税理士・所轄税務署にご確認ください。
返還インボイスとは|いちど売った分を「戻す」ときの書類
返還インボイスは、正式には適格返還請求書といいます。名前は難しいのですが、役割はとてもシンプルです。
インボイス(適格請求書)は「これだけ売りました、消費税はこれだけです」と伝える書類でした。返還インボイスはその逆で、「先に売った分のうち、これだけ戻します。その分の消費税はこれだけです」と伝える書類です。売上のプラスを証明するのがインボイス、売上のマイナスを証明するのが返還インボイス、と考えるとイメージしやすいと思います。
なぜこんな書類が必要なのかというと、消費税の計算では、売り手も買い手も「戻した分」をきちんと差し引く必要があるからです。売り手は預かった消費税を減らし、買い手は差し引いていた消費税(仕入税額控除)を減らす。その両方の根拠になるのが、この書類です。
用語メモ:仕入税額控除とは、自社が受け取った消費税から、仕入れや経費で支払った消費税を差し引いて納税額を計算する仕組みのこと。この控除を受けるためにインボイスの保存が求められる、というのがインボイス制度の骨格です。
交付する義務があるのは、適格請求書発行事業者(登録番号を持っている売り手)です。簡易課税や2割特例を選んでいる会社でも、登録している以上、売り手としての交付義務は変わりません。ここは見落としやすいところです。
出すのはどんなとき|返品・値引き・割戻しなど
消費税の世界では、これらをまとめて「売上に係る対価の返還等」と呼びます。具体的には、次のような場面です。
| 場面 | 現場での言い方 |
|---|---|
| 返品 | 「不良品だったので1個返します」 |
| 値引き | 「納期が遅れたので、その分お値引きします」 |
| 割戻し(リベート) | 「年間の取引額に応じて、あとから何%かお返しします」 |
| 販売奨励金 | 「たくさん扱ってくれたお礼として支払います」 |
| 売上割引 | 「支払期日より早く入金してもらえたので、その分を割り引きます」 |
| 振込手数料の売り手負担 | 「振込手数料を引いて入金しました」を売上値引で処理する場合 |
共通しているのは、すでに売上として計上した取引について、あとから受け取る金額が減るということです。
逆に、返還インボイスの出番ではないものもあります。
- 請求書を出す前の値引き:最初から値引後の金額でインボイスを出せばよいので、返還インボイスは要りません。
- 請求金額そのものを間違えていたとき:これは「返還」ではなく訂正なので、正しい金額のインボイスを出し直す(または修正インボイスを交付する)対応になります。請求書の直し方は訂正仕訳・赤伝の切り方|間違えた仕訳の直し方をやさしく整理の考え方とあわせて整理しておくと迷いません。
- 相手が免税事業者や一般消費者のとき:交付義務は課税事業者に対するものなので、義務としては生じません(求められたら出しても問題はありません)。
「あとから減らすのか、最初から少なく請求するのか」。この違いだけ持っておけば、ほとんどの場面は仕分けできます。
税込1万円未満なら交付は不要|いちばん効く例外
ここが、ひとり経理の実務でいちばん効いてくるところです。
税込1万円未満の売上に係る対価の返還等については、返還インボイスの交付義務が免除されています。 令和5年度の税制改正で設けられたもので、適用期限のない恒久的な措置です。「そのうち終わるのでは」と身構えなくて大丈夫です。
この免除のおかげで、現場でいちばん頻度の高い場面がまるごと外れます。
- 振込手数料の売り手負担:数百円なので、ほぼ確実に1万円未満。売上値引として処理しても、返還インボイスを別途出す必要は基本的にありません。処理方法そのものは振込手数料は誰が負担?先方負担・当方負担の仕訳の基本にまとめています。
- 少額の返品・端数の調整:数千円規模の返品や、端数をまるめる値引きも同じく不要です。
判定は、1回の返還ごとに、返す金額の税込価額で見ます。「その月の返還を全部足したら1万円を超えた」からといって、1件ずつが1万円未満なら免除の対象です。逆に、複数の請求分をまとめて1回の値引きにするなら、そのまとめた金額で判定することになります。
そしてもう一つ大事なのが、書類を出さなくても、売り手の消費税の計算では返した分をきちんと差し引けるということ。交付が免除されるだけで、税額の調整ができなくなるわけではありません。帳簿に返還の内容を記録しておけば大丈夫です。
もうひとつの「1万円」=少額特例とは別のルール
ここで、多くの人がつまずくポイントを先に整理しておきます。インボイス制度には「1万円未満」のルールが2つあって、名前も金額も似ているので混ざりやすいのです。
| 少額特例 | 返還インボイスの交付義務免除 | |
|---|---|---|
| 誰のためのルール | 買い手(仕入れる側) | 売り手(売った側) |
| 内容 | 税込1万円未満の課税仕入れは、インボイスの保存がなくても帳簿だけで仕入税額控除ができる | 税込1万円未満の返品・値引きは、返還インボイスを交付しなくてよい |
| 使える人 | 基準期間の課税売上高1億円以下など、一定の規模の事業者 | 適格請求書発行事業者すべて |
| 期限 | あり(令和11年9月30日までの課税仕入れ) | なし(恒久的な措置) |
つまり、「もらう書類の話(少額特例)」と「出す書類の話(返還インボイス)」で、まったく別のルールです。買い手側の少額特例のほうは少額特例|1万円未満はインボイス保存不要|対象と1万円の数え方に詳しくまとめてあります。
覚え方としては、「返す側の1万円には期限がない」。これだけ頭の隅に置いておけば、どちらの話をしているのか見失わずに済みます。
返還インボイスに書くこと

上の図は書類のイメージとして主な欄を抜き出したものですが、決まりとして書くべき項目は5つです。1万円以上を返すときは、次の内容を書いた書類を交付します。
- 自社の名称と登録番号(Tから始まる登録番号)
- 返還等を行う年月日(返品日・値引きをした日)と、その元になった取引を行った年月日
- 返還等の取引内容(品名。軽減税率の対象ならその旨)
- 税率ごとに区分して合計した返還額(税抜または税込)
- 返還額に係る消費税額等、または適用税率
普段お使いのインボイスの様式と見比べると、実は違いはわずかです。適格請求書の記載事項6つ|自社の請求書を見直すチェックと並べると分かりやすいのですが、返還インボイスには「交付を受ける相手の氏名・名称」が記載事項に入っていません。書いてはいけないという意味ではなく、必須ではない、ということです。実務では相手の会社名を入れたほうが管理しやすいので、そのまま入れて問題ありません。
もうひとつ、実務で助かる決まりがあります。項目2の「元になった取引を行った年月日」は、継続的に取引している相手であれば、「前月末日」「〇月分」「前月21日〜当月20日」といった合理的な範囲の記載でも認められます。返品が1年前の納品分だったとき、いちいち元の納品日を特定しなくてよい、ということです。売掛の消し込みで元取引をたどる手間を思うと、これはかなりありがたい取扱いです。
請求書と1枚にまとめていい|実務がラクになる書き方
「毎月の請求書とは別に、返還インボイスも作って送る」——正直、ひとりで経理を回していると、この二重管理はしんどいですよね。
安心してください。インボイスと返還インボイスは、1枚の書類にまとめて交付できます。 月次の請求書の中に「今月の返品・値引き」の行を設けて、必要な記載事項が両方そろっていればそれで足ります。
書き方は、大きく2通りあります。
- 並べて書く方法:請求書の中で「当月の売上」と「当月の返還等」を、税率ごとにそれぞれ区分して記載する。金額の内訳がはっきり残るので、あとから見返すときに分かりやすい方法です。
- 差し引いた金額を書く方法:税率ごとに、売上から返還額を控除した後の金額と、その消費税額を記載する。行数が減るぶん、請求書がすっきりします。
どちらでも構いません。ただし、同じ書類の中で税率が混ざるときは、税率ごとの区分が崩れないように注意してください。消費税額の端数処理は1枚の書類につき税率ごとに1回、という原則も変わりません(インボイスの端数処理|1枚に1回のルールと1円ズレの直し方)。
会計ソフトの請求書機能を使っているなら、値引き行をマイナス金額で入れるとこの形になっていることが多いです。一度、実際に出力される請求書PDFを見て、「返品日」と「返還額」が読み取れるかだけ確認しておくと安心です。
具体例で確認する|3つのケース
数字にしてみると、判断は一気にはっきりします。すべて税率10%の取引として見ていきます。
ケース1:商品1個の返品(税込11,000円) 8月に税込110,000円で10個納品し、9月に1個返品された。返す金額は税込11,000円で、うち消費税は1,000円。→ 1万円以上なので、返還インボイスが必要です。9月の請求書に「8月納品分 返品 1個 △11,000円(うち消費税1,000円)」の行を入れて交付すれば足ります。
ケース2:振込手数料440円を差し引かれた 請求額から440円少なく入金された。売上値引として処理する場合、返す金額は税込440円で、うち消費税は40円。→ 1万円未満なので、返還インボイスは不要です。帳簿に売上値引として記録すれば、消費税の計算でも差し引けます。
ケース3:年間の販売奨励金 税込33,000円 1年間の取引額に応じて、取引先に税込33,000円の販売奨励金を支払うことにした。うち消費税は3,000円。→ 1万円以上なので必要です。この場合、元になった取引の年月日は「2025年10月〜2026年9月取引分」のように期間で書けば大丈夫です。
税込金額から消費税額を出す計算は、消費税 税抜⇄税込 計算機で税率と端数処理を選んで確かめられます。手元の電卓と突き合わせる用にどうぞ。
受け取る側(買い手)のとき|帳簿で調整できる
自社が買い手の立場で、仕入先から値引きや返品の精算を受けたときはどうでしょうか。
このときに必要なのは、「仕入れに係る対価の返還等」として、控除していた消費税を減らす調整です。そしてここが大事なところなのですが、買い手には返還インボイスの保存義務はありません。帳簿に必要事項を記載して保存しておけば、調整はできます。
つまり、「相手から返還インボイスをもらえなかったから処理できない」ということにはならないのです。相手が1万円未満の免除を使っていて書類が来なくても、自社は自社の帳簿で正しく減らせば大丈夫。ここを知らないと、少額の値引きのたびに相手に書類を催促することになってしまいます。
帳簿に残しておきたいのは、次の内容です。
- 相手先の名称
- 返還等を受けた年月日
- 返還等の内容(軽減税率対象ならその旨)
- 税率ごとに区分した返還等の金額
会計ソフトで仕入値引の仕訳を「仕入返還」等の税区分で入力していれば、この情報はだいたい入っています。摘要欄に「◯月納品分 返品」の一言を足しておくと、あとから見たときに迷いません。税区分の考え方は消費税の税区分の付け方|課税・非課税・不課税・免税を記帳で分けるもあわせてどうぞ。
仕訳はどうなる|売上のマイナスとして戻す
処理の形も見ておきましょう。税抜経理で、税率10%の場合の例です。
売り手(自社が返す側)|税込11,000円の返品を受けた
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 売上高(または売上値引) | 10,000 | 売掛金 | 11,000 |
| 仮受消費税等 | 1,000 |
買い手(自社が受ける側)|税込11,000円の値引きを受けた
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 買掛金 | 11,000 | 仕入高(または仕入値引) | 10,000 |
| 仮払消費税等 | 1,000 |
ポイントは、税区分を「売上返還」「仕入返還」など、返還等を表す区分にしておくことです。ここを通常の売上・仕入のマイナスで入れてしまうと、消費税の集計上は同じ結果になることが多いのですが、取引の内訳を見返すときに追いにくくなります。ソフトによって区分名は違うので、一度だけ自社のソフトの呼び方を確認しておくと安心です。
なお、返品を受けたときに売掛金と相殺せず、いったん現金で返す場合は貸方が「現金・預金」に変わるだけです。売掛金の残高との突き合わせは売掛金の消し込み|ズレなく正確に進める手順とコツの手順に沿って確認してみてください。
返還インボイスのチェックリスト
全部を今日やる必要はありません。上から順に、できるところだけで大丈夫です。
- 判断するとき
- あとから金額が減る取引か(最初から値引後で請求するなら不要)
- 相手は課税事業者か
- 返す金額は税込1万円以上か(未満なら交付は不要)
- 複数分をまとめて返すときは、まとめた金額で判定した
- 交付する書類に書けているか
- 自社の名称と登録番号(T+13桁)
- 返品日(返還を行った日)
- 元になった取引の年月日(継続取引なら「〇月分」などの期間表記でも可)
- 品名(取引内容。軽減税率対象ならその旨)
- 税率ごとに区分した返還額
- 返還額に係る消費税額等、または適用税率
- 運用として
- 請求書と1枚にまとめる形にするか決めた
- 会計ソフトの請求書出力で、返品日と返還額が読み取れるか確認した
- 交付した控えを、インボイスの控えと同じ場所に保存している
- 自社が受ける側のときは、帳簿に返還の内容を記載している
明日やること(まず1つだけ)
直近3か月の入金明細を開いて、「請求額より少なく入金されていた取引」を1件だけ探す。それだけです。
見つかったら、差額が税込1万円以上か未満かを見ます。数百円の振込手数料なら、返還インボイスは不要。そのまま売上値引として処理されていれば、それで完了です。1万円以上の返品や値引きがあったなら、そのときに交付した書類を確認して、登録番号・返品日・品名・返還額が入っているかを見てみましょう。
1件確認できれば、自社の請求書の様式でこの5項目が満たせるかどうかが分かります。足りない欄があったとしても、直すのは1か所だけのはずです。
最後に

返品や値引きの処理で手が止まるのは、「あとから戻す」という取引が、そもそも例外的なものだからです。毎月のように起きるわけではないから、そのたびに調べ直すことになる。それは覚えが悪いのではなく、単に頻度の問題です。
覚えておきたいことは、実はそんなに多くありません。あとから減らすなら返還インボイス。ただし税込1万円未満なら出さなくていい。書くのは登録番号・返品日・品名・返還額など5項目で、請求書と1枚にまとめてよい。 この3行だけで、現場の判断はほぼ足ります。
今日、入金明細を1件見返せたなら、それはもう「次に返品が来たとき、調べ直さなくていい自分」を用意できたということです。次の値引きは、きっと数分で終わります。
本記事は一般的な実務情報です。消費税の取扱いは取引の内容・契約の形態・事業者の状況によって異なり、制度は改正される場合があります。最新の取扱いは国税庁の一次情報を確認し、最終的な判断は顧問税理士・所轄税務署にご確認ください。
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