
売掛金の時効は5年|放置しない回収管理と「承認」の残し方
月末に売掛金の補助元帳を眺めていたら、3年前の日付の行が1つ、ぽつんと残っていました。
金額はそれほど大きくありません。前任の人の時代の取引で、相手先とはもう取引がない。督促した記録も見当たらない。「これ、まだ請求できるんだろうか」「そもそも、いつまでに何をすればよかったんだろう」——そう思いながら、今月もそっと画面を閉じる。
こういう残高が残っているのは、あなたの管理が甘いからではありません。ひとりで回していると、毎月の入金確認と請求で手一杯で、「何年も動いていない債権」を見に行く時間がそもそも用意されていないのが普通です。
この記事では、売掛金の消滅時効の基本と、時効を意識した回収管理を、いつもの表に少し足すだけで回すやり方を、一緒に整理していきます。
結論:売掛金(代金債権)は、いまの民法では原則として支払期日から5年で時効にかかり、相手が「時効です」と主張すると請求できなくなる可能性があります。ただし、相手が一部を入金した・残高確認書に署名して返してくれた・支払いを待ってほしいと相談してきたなど、債務を認める行動(承認)があると、時効はそこからあらためて数え直しになります。実務でやることは2つだけ。①売掛金の一覧に「時効の目安日」の列を足す、②相手が債務を認めたやりとりを記録として残す。今日はまず、支払期日から2年以上たっている売掛金がないかだけ、見てみましょう。
何が起きているか|「古い売掛金」は、静かに残り続ける
時効が問題になる売掛金は、たいてい次のどれかの形で残っています。
- 前任者の時代から引き継いだ残高:経緯が分からないので、触りにくいまま年をまたいでしまう。
- 取引が終わった相手の端数:数千円〜数万円の未回収。督促するほどでも…と後回しにしているうちに、年数だけが進む。
- 「少しずつ払います」と言われた相手:最初は入金があったのに、いつの間にか止まっている。
どれも、毎月の消し込みでは「動きのない行」なので目に入りにくいのが特徴です。そして、時効は請求しないまま時間がたつことで進みます。つまり、時効対策のほとんどは、法律の知識よりも「古いものに気づく仕組み」の話です。
売掛金の時効の基本|「5年」と「数え直し」だけ押さえる
細かい条文まで覚える必要はありません。ひとり経理として押さえておきたいのは、次の3つです。
① 原則は「支払期日から5年」
2020年4月に施行された改正民法で、時効のルールは整理されました。いまの原則は、
- 権利を行使できることを知った時から5年
- 権利を行使できる時から10年
のどちらか早いほうです。売掛金の場合、支払期日はふつう請求した側が分かっているので、実務上は「支払期日から5年」と考えておけば十分です。
なお、2020年3月以前に結んだ契約の取引は、改正前のルール(業種によってはもっと短い時効)が適用されます。もしそれほど古い残高が見つかったら、自分で判断せず、顧問税理士・顧問弁護士に共有してください。
② 時効は「自動で消える」わけではない
時効期間が過ぎても、債権がその瞬間に帳簿から消えるわけではありません。相手が「時効なので払いません」と主張(援用)して、はじめて請求できなくなります。
だからといって「期間を過ぎても大丈夫」という意味ではありません。期間が過ぎたあとの扱いは複雑になるので、過ぎる前に気づける状態にしておくことがいちばんの対策です。
③ 「承認」があると、時効は数え直しになる
ここが実務でいちばん大事なところです。相手が債務があることを認める行動をとると、それまで進んでいた時効はリセットされ、そこからあらためて5年の数え直しになります(法律上は「時効の更新」と呼びます)。

承認にあたると考えられている代表的なやりとりは、次のようなものです。
| やりとり | 経理の手元に残るもの |
|---|---|
| 一部入金(全額でなくても、その債権の支払いとして入金があった) | 通帳・入金明細、消し込みの記録 |
| 残高確認(残高確認書に署名・押印して返送してもらった) | 返送された残高確認書 |
| 支払相談(「来月まで待ってほしい」「分割にしてほしい」と相手から申し出があった) | メール・書面、分割の合意書 |
つまり、普段の回収や残高照合のやりとりそのものが、時効の管理にもなっているということです。特別な手続きを増やすというより、すでにやっていることの「証拠の残し方」を少し意識するだけで、ずいぶん守りが固くなります。
このほか、内容証明郵便などで請求(催告)すると時効の完成を6か月先延ばしにでき、「支払いについて話し合いましょう」という書面での合意があれば最長1年先延ばしにできるしくみもあります。ただ、これらは「数え直し」ではなく一時的な猶予で、条件も細かいため、ここまで来たら弁護士への相談をおすすめします。
具体例|売掛金の一覧に「時効の目安日」の列を足す
新しい表を作る必要はありません。滞留債権リスト(売掛金年齢表)や、取引先ごとの未回収一覧があれば、そこに3列だけ足します。
| 取引先 | 請求日 | 支払期日 | 金額 | 最後の承認日 | 承認の中身 | 時効の目安日 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| A社 | 2024/4/30 | 2024/5/31 | 55,000 | — | — | 2029/5/31 |
| B社 | 2023/9/30 | 2023/10/31 | 132,000 | 2025/3/10 | 一部入金 | 2030/3/10 |
| C社 | 2025/1/31 | 2025/2/28 | 22,000 | 2026/6/15 | 残高確認書返送 | 2031/6/15 |
- 最後の承認日:一部入金・残高確認書の返送・支払相談のうち、いちばん新しい日付。なければ「—」。
- 時効の目安日:最後の承認日があればその5年後、なければ支払期日の5年後。エクセルなら
=EDATE(基準日,60)で60か月後が出せます。 - この日付はあくまで管理の目安です。正確な起算日や、承認にあたるかどうかの判断は個別の事情で変わります。
B社の例では、2023年10月が支払期日でしたが、2025年3月に一部入金があったので、目安日も2030年3月まで延びています。入金があった日を、消し込みと一緒にこの列にも書く——それだけで、表がそのまま時効の管理台帳になります。
「目安日まで2年」を、見直しの合図にする
目安日そのものを待っていると、気づいたときには手が打ちにくくなります。おすすめは、目安日まで2年を切った行に色をつけること。そこが「社長・顧問に一度共有する」タイミングです。色がついた行が毎月1〜2件なら、ひとりでも十分に追いかけられます。
影響|放置すると、回収と決算の両方に響く
時効を意識しないまま古い売掛金が残っていると、困るのは回収だけではありません。
- 回収:時間がたつほど、相手の担当者が変わったり、会社の状況が変わったりして、話を進めにくくなります。
- 決算:回収できるか分からない売掛金が残っていると、貸借対照表の売掛金が実態より大きく見えます。回収の見込みが薄い債権の扱いは、貸倒損失・貸倒引当金の判断とつながってくるので、顧問税理士と相談が必要です。
- 引き継ぎ:経緯の分からない残高は、次の担当者にとっても同じ「触れない行」になります。承認の記録が残っていれば、それだけで説明がつきます。
逆に言えば、時効の目安日と承認の記録があるだけで、「この残高は何で、いつまでに何をするか」を社長にも税理士にも一言で伝えられるようになります。
明日やること(まず1つだけ)
明日は、支払期日から2年以上たっている売掛金があるかだけを見てみてください。会計ソフトで売掛金の補助元帳か債権残高の一覧を開き、古い日付の行を探すだけで大丈夫です。
1件も無ければ、それはとても良い状態です。見つかったら、その行について「最後に入金や連絡があったのはいつか」を、通帳やメールで1つだけ確かめてみましょう。表に列を足すのは、その次で間に合います。
売掛金の時効管理チェックリスト
- 気づく
- 支払期日から2年以上たっている売掛金がないか確認した
- 2020年3月以前の契約にもとづく古い残高がないか確認した(あれば顧問に共有)
- 取引が終わった相手の端数が残っていないか確認した
- 表に足す
- 売掛金の一覧に「最後の承認日」「承認の中身」「時効の目安日」の3列を足した
- 目安日まで2年を切った行に色をつけた
- 記録を残す
- 一部入金があったら、消し込みと一緒に「最後の承認日」を更新している
- 返送された残高確認書を、取引先ごとに保存している
- 支払いの延期や分割の相談は、メールや書面で残している(口頭だけで終わらせない)
- 相談する
- 色がついた行を、社長・顧問税理士に共有した
- 内容証明・支払督促など法的な手続きが必要そうなときは、弁護士に相談した
最後に
時効という言葉は、少し身構えてしまいますよね。法律の話のようで、自分の仕事の範囲なのかも分かりにくい。でも、やることを分解してみると、その中身は「古いものに気づく」「やりとりの記録を残す」という、あなたが毎月すでにやっている仕事の延長です。
入金を確かめる。残高確認書を送る。相手からの相談メールを保存する。その一つひとつが、会社のお金を静かに守っています。
全部の残高を一度に片づけなくていい。今月は古い行を1つ見つけて、最後のやりとりの日付を書き込むところから。それだけで、あの「触れない行」は「いつまでに何をするか分かっている行」に変わります。一緒に始めてみましょう。

本記事は一般的な実務情報です。消滅時効の起算日や、承認・催告などにあたるかどうかの判断は、契約の内容や個別の事情によって異なります。時効や法的手続きが絡む判断は顧問弁護士に、貸倒れなど税務・会計の取扱いは顧問税理士・所轄税務署にご確認ください。
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