長く入金のない売掛金の一覧を見ながら、そろそろ貸倒れとして処理すべきか迷っているひとり経理の担当者

貸倒れの処理|貸倒損失・貸倒引当金の判断と仕訳の基本

督促しても、電話しても、入金の見通しが立たない売掛金。「たぶん、もう回収できない」と頭では分かっていても、それをいつ、どうやって帳簿から落とせばいいのか——ここで手が止まってしまうこと、ありませんか。

貸倒れの処理は、ひとり経理にとって特に不安の大きい仕事だと思います。勝手に「もう回収できない」と決めて損失に落としていいのか、あとで税務署に「その処理は認められません」と言われないか、消費税はどうなるのか。相談できる相手もいないまま、金額の大きい未収金ほど、判断を先延ばしにしてしまいますよね。

この記事では、貸倒れを「気持ちで諦める」のではなく、「条件を確かめて、順番に処理する事務」にするための考え方を整理します。まず「回収不能になってから落とす貸倒損失」と、「まだ回収不能ではないけれど備えておく貸倒引当金」の違いから、一緒に見ていきましょう。

結論:貸倒れの処理には2つあります。①貸倒引当金=まだ回収不能とは言えないが、将来の貸倒れに備えて決算で「見積り」を費用計上しておくもの。②貸倒損失=実際に回収できなくなった債権を帳簿から落とすもの。貸倒損失として落とせるのは、国税庁が示す3つのパターン(法律上の貸倒れ/回収不能/取引停止から1年以上)のいずれかに当てはまるときだけで、「自分の感覚で回収できなさそう」だけでは落とせません。判断に迷う金額の大きいものは、必ず顧問税理士に確認してから処理してください。

まず整理:貸倒引当金と貸倒損失は「時点」が違う

似た言葉で混乱しやすいので、最初にここだけはっきりさせておきましょう。2つは、対象にする「時点」がまったく違います。

流れとしては、期中や期末に「回収できなくなった」ものは貸倒損失で落とし、まだ落とせないけれど不安の残る債権に対しては、決算で貸倒引当金を積んでおく——この2段構えだとイメージすると分かりやすいです。

まだ回収不能ではない債権には貸倒引当金で備え、回収不能が確定した債権は貸倒損失で落とす、という時点の違いを示した図
「まだ分からない」段階の備えが引当金、「もうダメ」が確定した段階の処理が貸倒損失

貸倒損失として落とせる3つのパターン

「もう回収できないから損失にしたい」と思っても、税務上、貸倒損失として認められるのは決まった条件を満たすときだけです。国税庁は、大きく次の3つのパターンを示しています。自分の債権がどれに当てはまるかを、まず確かめます。

① 法律上の貸倒れ(債権そのものが消えた)

会社更生法・民事再生法の手続きや、債権者集会での協議決定などで、債権の金額が法的に切り捨てられた場合です。相手が正式な手続きに入り、「この分はもう請求できない」と法律的に決まったケース。この場合は、切り捨てられた金額をその事業年度の貸倒損失にします。

② 事実上の貸倒れ(全額回収できないことが明らか)

相手の資産状況・支払能力からみて、債権の全額が回収できないことが明らかになった場合です。ポイントは2つ。「全額」が回収できないときに限られること(一部でも回収できそうなら、まだ落とせません)と、担保があるならそれを処分したあとであること。この処理では、形として帳簿に「1円」の備忘価額を残すのが通例です(後述)。

③ 形式上の貸倒れ(取引停止から1年以上など)

継続的な取引をしていた相手との取引を停止して1年以上たった売掛債権などについては、備忘価額(1円)を残して残りを貸倒損失にできます。ほかに、同じ地域の売掛債権の合計より取立てにかかる旅費などのほうが高くつくのに、督促しても支払われない、といったケースもここに含まれます。

③の注意点:この「取引停止1年以上」の扱いは売掛金など(売上代金の債権)が対象で、貸付金には使えません。また「取引を停止したとき」と「最後の弁済期」「最後の弁済のとき」のうち、いちばん遅い日から1年、と数えます。金額の大小にかかわらず、まず「これは売掛金か、貸付金か」を確認してください。

大切なのは、「回収できなさそう」という感覚だけでは①〜③のどれにも当てはまらない、ということです。督促の記録や相手の状況が分かる資料を残しておくと、あとで「なぜ落としたのか」を説明できます。判断が微妙なものは、売掛金の回収が遅れたときの督促の進め方で経緯を整えつつ、顧問税理士に相談するのが安全です。

貸倒損失の仕訳と「備忘価額1円」

実際の仕訳はシンプルです。売掛金50万円が回収不能になり、貸倒損失として落とす場合を例にします。

引当金を設定していないときは、次のようになります。

(借方)貸倒損失 500,000 /(貸方)売掛金 500,000

②事実上の貸倒れや③形式上の貸倒れでは、1円だけ「備忘価額」として残すのがルールです。「まだ完全にゼロにせず、この債権があったことを帳簿に記録として残しておく」ための1円だと考えてください。この場合は次のようになります。

(借方)貸倒損失 499,999 /(貸方)売掛金 499,999

「なぜ1円残すの?」と迷いますが、深く考えなくて大丈夫です。②③のときは1円を残す、①法律上の切り捨てのときは残さず全額落とす——このセットで覚えておけば十分です。

忘れやすい「消費税」の扱い

ここは見落とされがちですが、課税売上に対する売掛金が貸し倒れたときは、その中に含まれていた消費税額を、貸倒れの起きた期の消費税の計算で控除できます(貸倒れに係る消費税額の控除)。売ったときに預かった前提で納めた消費税を、回収できなかった分だけ調整できる、というしくみです。

ただし、これは原則課税(本則課税)で申告している場合の話で、簡易課税を選んでいるときはこの控除はありません。自社がどちらで申告しているか分からないときは、消費税の本則課税と簡易課税の違いを確認したうえで、実際の控除処理は顧問税理士にお願いするのが確実です。金額の計算(税込債権から税額を割り戻す)を間違えやすい部分なので、ここは無理に自分だけで完結させなくて大丈夫です。

貸倒引当金は「まだ落とせない不安」への備え

貸倒損失で落とすほどではないけれど、「この売掛金、少し不安だな」というものに備えるのが貸倒引当金です。決算のときに、期末の売掛金などの残高をもとに、将来の貸倒れを見積もって費用計上します。

中小企業の実務では、大きく2つの見積り方があります。

仕訳のイメージは次のとおりです(差額補充法などで金額は変わります)。

(借方)貸倒引当金繰入 30,000 /(貸方)貸倒引当金 30,000

翌期になったら、前期に積んだ引当金を戻し入れ(または差額を調整)します。ここは会計ソフトが自動で計算してくれることも多いですが、そもそも自社が貸倒引当金を設定できる会社か(中小法人等に当たるか)、どの繰入率を使うかは、決算の方針として顧問税理士と一度すり合わせておくと安心です。年に一度のことなので、毎年ゼロから悩まなくて済むように、決めた方針をメモに残しておきましょう。

貸倒れ処理のチェックリスト

今日すべてを判断する必要はありません。上から順に、確かめられるところまでで大丈夫です。

明日やること(まず1つだけ)

明日は、売掛金の一覧を開いて、「入金予定日から1年近く、あるいはそれ以上、動いていない売掛金がないか」を一度だけ確認してみてください。全部をすぐ処理しなくて大丈夫です。もし該当するものがあれば、その1件について「相手はどうなっているか」「取引を止めてどれくらいたつか」をメモに書き出す。それだけで、「なんとなく気になっていた債権」が「判断できる材料のそろった案件」に変わります。処理そのものは、材料がそろってから、税理士と一緒に決めれば十分です。

最後に

回収できなかった売掛金を帳簿から落とすのは、金額の問題以上に、気持ちの重い作業だと思います。「自分の督促が足りなかったのかな」「もっと早く動けばよかったのかな」と、つい自分を責めてしまいがちですよね。ひとりで経理を回していれば、なおさらです。

貸倒れの処理の判断基準が整理でき、落ち着いた表情で決算作業を進めるひとり経理の担当者

でも、貸倒れは「努力が足りなかった結果」ではなく、事業をしていれば避けきれないことのひとつです。だからこそ、税務上も「こういうときは損失にできる」という道がちゃんと用意されています。あなたが今日この記事を読んで、①〜③の条件と1円の備忘価額、消費税の扱いを確かめたこと自体、もう根拠を持って処理に進む準備ができたということです。完璧に一人で判断しようとしなくて大丈夫。材料をそろえて、迷うところは頼りながら、静かに一件ずつ片づけていきましょう。

本記事は一般的な実務情報です。貸倒損失・貸倒引当金・消費税の取扱いは、個別の事情や最新の法令・通達によって異なります。金額の大きい未収金や、判断が微妙な貸倒れの処理は、必ず顧問税理士・所轄税務署にご確認ください。

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