通帳の入金額と請求書の金額が合わず、取引先から届いた相殺の連絡票を見比べているひとり経理の担当者

売掛金と買掛金の相殺|相殺通知書の作り方と仕訳・消費税の扱い

通帳を開いて、入金額を請求書と突き合わせる。……合わない。しかも、数百円のズレではなく、まとまった額が足りない。

慌てて取引先の担当者に連絡しようとしたところで、メールの受信箱に「今月は相殺でお願いします」の一文を見つける——ひとりで経理を回していると、この順番、けっこうありますよね。

同じ取引先に売る側でも買う側でも取引があるとき、お互いに振り込み合うのは手間も手数料ももったいない。だから差し引いて残りだけ払う。相殺は、そういう実務的な決済のしかたです。珍しいことでも、怪しいことでもありません。

ただ、経理から見ると気をつけたい点がいくつかあります。とくに消費税の扱いは、相殺の金額に引きずられると間違えます。今日はそこを含めて、相殺を「起きても慌てない処理」に変えていきましょう。

結論:相殺は、同じ取引先に対して売掛金(もらう権利)と買掛金(払う義務)の両方があるとき、対当額——重なる金額の分——をお互いに消し合う決済方法です。進め方は4つ。①双方の残高を突き合わせる → ②相手と合意し、相殺通知書など書面を交わす → ③差額だけを振込などで決済する → ④仕訳は買掛金 / 売掛金で対当額を消す。そして最重要の一点として、消費税とインボイスは「相殺前の総額」のまま扱います。相殺はあくまで決済の手段で、売上と仕入が減るわけではありません。課税売上を差額の金額にしてしまうのが、いちばん多い間違いです。

相殺は「決済のしかた」であって、値引きではない

まず、いちばん大事な位置づけから。

相殺は、支払い方のバリエーションです。現金で払うか、振込で払うか、相殺で払うか——同じ列に並ぶ話であって、売上や仕入がなかったことになるわけではありません

ここを取り違えると、あとで出てくる消費税もインボイスも、まとめて間違えます。「相殺=振込の代わり」とだけ覚えておけば、じつは大半のつまずきは避けられます。

法律上も、民法で、互いに同じ種類の債務を負っているときは対当額について相殺できると定められています(民法505条)。売掛金50万円と買掛金30万円があれば、重なる30万円の分をお互いに消し、残りの20万円だけを実際に動かす、という考え方です。

売掛金と買掛金の重なる部分を相殺して、残った差額だけを振り込む仕組みを棒の長さで示した図
重なる金額の分だけを消し合い、はみ出た「差額」だけが実際に動く

相殺できるかどうか、3つだけ確認する

相殺の話が出たら(あるいは自社から持ちかけたいと思ったら)、先にこの3つを見てください。

1. 同じ相手との債権と債務か

A社への売掛金と、B社への買掛金は相殺できません。「A社」と「A社大阪支店」のように取引先マスタが分かれているだけなら同じ会社ですが、グループ会社の別法人は別です。請求書と支払先の会社名を、正式名称で見比べてください。

2. 支払期日は来ているか

こちらが受け取る側の売掛金は、支払期日が来ていることが必要です。一方、こちらが払う側の買掛金は、期日前でも「先に払ってしまってかまわない」と自分で決められるので、実務上は問題になりません。

つまり気にするのは、相手からもらう予定のお金のほうの期日です。まだ請求もしていない来月分の売上を、今月の買掛金と相殺する——これはできません。

3. 契約書で相殺が禁止されていないか

基本契約書や取引約款に「相殺を行わない」「事前の書面による承諾を要する」といった条項が入っていることがあります。とくに大手企業や金融機関との取引では見かけます。相殺を持ちかける前に、一度契約書を確認しておくと安心です。

法律上は、条件がそろえば一方的な意思表示だけでも相殺は成立します。ただし実務では、相手の帳簿にも同じ処理が必要になるため、黙って差し引くと「入金が足りない」と督促の連絡が来ます。必ず事前に伝えて合意する——ここは法律の話というより、取引を続けるための段取りの話です。

進め方は4ステップ

ステップ1:双方の残高を突き合わせる

自社の帳簿で、その取引先の売掛金残高買掛金残高を出します。会計ソフトの補助元帳や取引先別残高一覧で確認できます。

このとき、どの請求書とどの請求書を相殺するのかまで特定しておいてください。「合計いくら」だけで進めると、あとで消し込みができなくなります。相殺するのは残高そのものではなく、個々の請求(債権)です。

ステップ2:相手に伝えて合意する

メールや電話で「今回、御社への支払分と当社の請求分を相殺させていただけますか」と伝えます。相手側も同じ処理をするので、先方の締め日に間に合うタイミングで連絡するのが親切です。

ステップ3:相殺通知書を交わす

合意ができたら、書面にします。名前は相殺通知書相殺確認書債権債務相殺のご案内など会社によりますが、中身が同じなら呼び方は問いません。

書いておきたいのは、この項目です。

一枚あるだけで、あとから「あの月の入金が少ないのはなぜ?」となったときに、自分でも相手でもすぐ説明できます。監査や税務調査の場面でも、入金差額の理由をその場で示せます。

なお、この通知書をメールやPDFでやりとりした場合は、電子取引のデータとして保存の対象になります。紙に印刷して残すだけでは要件を満たさないので、電子取引のデータ保存の運用にそのまま乗せておいてください。

ステップ4:差額を決済して、仕訳を入れる

残った差額を振込などで決済します。振込手数料をどちらが負担するかも、通知書の段階で決めておくとあとが楽です(考え方は振込手数料の負担と仕訳にまとめています)。

仕訳は、思っているよりシンプル

例で見てみましょう。取引先A社に対して、次の残高があるとします(税抜経理・消費税10%)。

相殺する金額(対当額)は、小さいほうの330,000円。差額の220,000円が実際に入金されます。

まず、相殺したとき

借方金額貸方金額
買掛金330,000売掛金330,000

これだけです。「A社に払う予定だった330,000円が、A社からもらう予定だった330,000円と打ち消し合った」という記録。新しい損益は発生しません

次に、差額が入金されたとき

借方金額貸方金額
普通預金220,000売掛金220,000

売掛金550,000円が、相殺330,000円+入金220,000円できれいにゼロになりました(330,000+220,000=550,000)。買掛金330,000円もゼロです。

会計ソフトによっては、相殺の仕訳を1本にまとめて入れることもできます。

借方金額貸方金額
買掛金330,000売掛金550,000
普通預金220,000

(借方合計550,000円=貸方合計550,000円)

どちらでも構いません。ただ、相殺した日と入金された日が違うなら、日付ごとに分けて入れたほうが、あとから残高を追いやすくなります。

相殺の日付は、原則として相殺通知書に書いた相殺日(当事者が合意した日)にそろえます。自社と相手の帳簿で日がずれると、残高の照合のときにお互い探し物をすることになります。

いちばん間違えやすいのは、消費税

ここが今日の山場です。ゆっくり読んでください。

消費税の計算のもとになるのは、相殺する前の「総額」です。

先ほどの例なら、

なぜか。消費税は「対価を得て行う資産の譲渡等」にかかるものだからです。売った事実も、買った事実も、相殺によって消えるわけではありません。消えたのは「お金を振り込み合う手間」だけです。

よくある間違いはこの2つです。

上の仕訳のとおり、売上と仕入はそれぞれ発生時にきちんと計上済みで、相殺の仕訳(買掛金 / 売掛金)には税区分をつけません(不課税・対象外)。この形で入っていれば、自動的に正しくなります。逆にいえば、相殺の仕訳にうっかり課税区分がついていないかだけ、確認してみてください。消費税の税区分の入力ミスが起きやすいところです。

インボイスも、総額で交付・保存する

考え方は消費税と同じです。相殺は決済手段なので、インボイス(適格請求書)のやりとりは何も変わりません

そして、相殺通知書はインボイスの代わりにはなりません。相殺通知書は「決済の記録」であって、記載事項を満たした請求書ではないからです。相殺したときこそ、相手からの請求書がちゃんと手元にあるかを確認してください。相殺で入金がない月は請求書の回収も忘れがちで、あとから探すと大変です。

自社が出す請求書の記載事項に不安があれば、適格請求書の必須記載事項をあわせて見ておくと安心です。

つまずきやすい3つのポイント

1. 相殺の領収書に、印紙は要らない

相殺したことを証明する書面を「領収書」の形で出す会社があります。この場合、金銭を実際に受け取っていないので、印紙税がかかる受取書(第17号文書)には当たらないとされています。つまり、相殺のみの領収書に収入印紙は不要です。

ただし条件があります。書面に「相殺による」旨がはっきり書かれていること。何も書かずに「金550,000円 領収しました」とだけ書くと、外から見れば普通の領収書です。

また、一部を相殺し、残りを現金で受け取ったときは、実際に受け取った金額のほうが記載金額になります。金額の判断は収入印紙が必要な書類と金額にまとめてあるので、迷ったらそちらを見てください。

2. 決算書では、勝手に相殺して表示しない

実際に相殺した分は帳簿から消えますが、まだ相殺していない売掛金と買掛金を、決算書の上だけで差し引いて表示するのは避けます。会計のルールでは、資産と負債はそれぞれの総額で表示するのが原則だからです。

これは勘定科目内訳明細書を作るときに効いてきます。決算書は相殺後、内訳書は相殺前——といった食い違いが起きると、税理士から必ず質問が来ます。「実際に相殺したものだけが消えている」状態になっているか、期末に一度見ておきましょう。

3. 回収が心配な相手ほど、相殺が効く

これは前向きな話です。

支払いが遅れがちな取引先に対して、こちらにも買掛金がある——この状態は、じつは回収の備えがあるということでもあります。相手の資金繰りが苦しくなったとき、単純な売掛金は待つしかありませんが、相殺できる債務があれば、その分は自分の側で処理できる余地が残ります。

もちろん、相手が倒産手続きに入ったときの扱いは法律の細かいルールがあり、そこは自分で判断せず、早めに顧問税理士や弁護士に相談してください。ここでお伝えしたいのは、「この取引先、買掛もあったな」と気づけること自体が守りになる、ということです。

滞留債権の管理で回収の遅れが見えている相手については、買掛金の有無もセットで見るようにしておくと、督促の前に打てる手がひとつ増えます。

相殺のときのチェックリスト

相殺の話が出たら、上から順に確認してみてください。

明日やること(まず1つだけ)

全部を今日やろうとしなくて大丈夫です。

明日やることは、「取引先別の売掛金残高と買掛金残高を並べて出してみて、両方に名前が載っている会社がないか探す」だけで十分です。

会計ソフトの取引先別残高一覧を、売掛金と買掛金でそれぞれ出す。名前を突き合わせる。両方にいる会社があったら、その行に印をつけておく。

見つかったからといって、すぐ相殺しなくて構いません。ただ、「うちはこの会社と、もらう側でも払う側でもある」と知っているだけで、次に入金差額が出たときの探し物が一段速くなります。入金額が請求と合わないときの確認順でも、相殺は上位に来る原因です。

最後に

相殺は、慣れている会社にとっては当たり前の手続きです。でも、初めて「相殺でお願いします」と言われた側からすると、入金は足りないし、仕訳は自信がないし、消費税はどうするのか誰にも聞けない。あの数分の落ち着かなさは、経験した人にしか分からないと思います。

相殺通知書を交わして売掛金と買掛金の残高がそろい、落ち着いた表情で仕事を終えたひとり経理の担当者

でも、今日で道順はできました。同じ相手か確かめる。書面を交わす。仕訳は買掛金 / 売掛金。消費税は相殺前の総額のまま。 この4つを押さえておけば、次に相殺の連絡が来たとき、手は止まりません。

そしてもうひとつ。相殺は、お互いに取引がある関係でしか起きません。売る相手でもあり、買う相手でもある——それは、その取引先とちゃんと関係が続いている証拠でもあります。少し面倒な処理の向こうに、そういう関係があると思うと、書類の1枚も悪くない気がしてきませんか。

通帳を見て「合わない」と気づいて、原因を探しにここまで来た。それだけで、もう十分に丁寧な仕事です。完璧でなくて大丈夫。今日わかったところまでで、確かに前に進んでいます。

本記事は一般的な実務情報です。税務・会計の取扱いや契約上の可否は個別の事情によって異なります。制度の要件は改正されることもあるため、最終的な判断は国税庁の情報や、顧問税理士・所轄税務署、契約内容については弁護士等の専門家にご確認ください。

よければ、こちらも

入金が合わないときの原因の切り分けは入金額が請求と合わない|差額・手数料・相殺の確認順に、消し込みの手順は売掛金の消し込みを正確に行う手順とコツにまとめています。支払側の漏れを防ぐ仕組みは買掛金・未払金の支払漏れを防ぐ支払管理表の作り方も、ほかの債権債務まわりの手順とあわせて記事一覧から少しずつ一緒に整理していきましょう。

関連用語