
電子マネー・交通系ICの仕訳|チャージ時と利用時どちらで計上する
火曜の午前。経費精算の書類をめくっていて、手が止まります。
「Suicaチャージ 10,000円」。レシートは、券売機から出てきた小さな紙が1枚だけ。
このカードで、社員は電車にも乗るし、コンビニで来客用のお茶も買っています。この1万円、どこまでが今月の経費なんでしょうか。
前の担当者のやり方を見てみると、チャージした日に全額を旅費交通費で落としていました。それでずっと回ってきたようです。でも、期末に残高が残っていたらどうなるんだろう。そもそもコンビニの分まで旅費交通費でいいんだろうか。消費税は、チャージのときに10%を取っていいんだろうか。
考え出すと、小さな1枚のカードから疑問が3つも4つも出てきます。しかも聞ける相手がいません。
大丈夫です。ここは、多くの会社が同じところで迷っています。そして判断の軸は、実はひとつしかありません。
今日はその軸を1本だけ持ち帰って、あとは自社のやり方を決めるだけにしましょう。一緒に順番に整理していきます。
結論:チャージは「預けただけ」、使ったときが経費
先に答えです。電子マネーの会計処理は、次の一文に集約されます。
チャージは、お金を現金から電子マネーに移し替えただけ。経費になるのは、それを使ったとき。
チャージした瞬間は、まだ何も買っていません。財布から小銭入れにお金を移したのと同じで、会社のお金は減っていないからです。
そのうえで、実務では次の3つを決めれば処理が固まります。
| 決めること | 選択肢 | 迷ったときの目安 |
|---|---|---|
| ① いつ経費にするか | 原則(使ったとき)/簡便法(チャージしたとき) | 業務専用カードで金額が小さいなら簡便法でも回る |
| ② 期末残高をどうするか | 資産に振り替える/そのまま | 振り替える(ここは省略しない) |
| ③ 誰のカードで払うか | 会社のカード/個人のカードを立替 | 混ぜない。分けて運用する |
このうち①は自社の好きなほうを選べますが、②だけは選択の余地が小さいところです。理由は後で説明します。
以下、順に見ていきます。今日は①と②だけ読めば十分です。
何が起きているか:電子マネーは「お金」ではなく「前払い」
なぜチャージが経費にならないのか。ここを一度だけ丁寧に見ておくと、あとの判断が全部つながります。
交通系ICや電子マネーは、会計の世界では前払式支払手段(ぜんばらいしきしはらいしゅだん)と呼ばれるものです。あらかじめお金を預けておいて、後から使う仕組み。商品券やプリペイドカードと同じ仲間です。

だから、お金の動きはこう分かれます。
- チャージした日:会社の預金 → 電子マネーの残高。資産の形が変わっただけ
- 使った日:電子マネーの残高 → 電車代・お茶代。ここで初めて費用になる
「チャージした日に経費にする」やり方が広まっているのは、それが正しいからではなく、そのほうが手間が少ないからです。実際、期末をまたがなければ結果はほとんど同じになります。
問題が出るのは、決算のときだけです。3月31日の時点でカードに8,400円が残っていたら、その8,400円はまだ何も買っていないお金です。それを今期の経費にしてしまうと、来期に使うものの代金を今期に落としたことになります。
ここが、この記事でいちばん押さえたい一点です。期末残高だけは、資産に戻す。 逆に言えば、そこさえ押さえておけば、日々の入力はラクなほうを選んで構いません。
方法①:原則どおり、使ったときに経費にする
まず、教科書どおりのやり方です。チャージ時は資産、利用時に費用にします。
科目は前払金を使うのが素直ですが、仮払金や、電子マネー専用の補助科目でも構いません。大事なのは、社内で1つに決めて使い続けることです(会計では、こうしてやり方を変えないことを「継続適用」と呼びます)。
(10,000円チャージしたとき)
前払金 10,000 / 普通預金 10,000 ※消費税は動かさない
(電車代 1,240円に使ったとき)
旅費交通費 1,240 / 前払金 1,240 ※課税仕入 10%
(コンビニで来客用のお茶 660円を買ったとき)
会議費 660 / 前払金 660 ※課税仕入 10%
見てのとおり、利用のたびに1行ずつ起票することになります。正確ですが、電車の乗降が月に何十件もある会社だと、この行数はしんどいところです。
そこで実務では、月末に1回だけまとめるのが現実的です。
(月末に、その月の利用履歴を集計して1回で起票)
旅費交通費 18,650 / 前払金 22,610
会議費 3,960
検算しておきます。18,650 + 3,960 = 22,610。左右が合っています。ここが合わないときは、履歴の拾い漏れか、二重に拾っているかのどちらかです。
利用履歴は、モバイル版のアプリやWebの会員サービスからダウンロードできることが多いです。CSVで落とせるなら、Excelで科目ごとに合計するだけで済みます。集計のやり方はExcelで経理の集計を時短する(SUMIF・VLOOKUP)にまとめました。
このやり方が向いているのは、カードの利用が多く、内訳もばらけている会社です。1行にまとめてしまうと後から中身が追えなくなるので、月次でも分けて記帳しておくと安心です。
方法②:チャージ時に経費にして、期末だけ直す(多くの会社の現実解)
次に、実務でよく使われているやり方です。
日々はチャージ時に費用処理しておいて、決算のときだけ残高を資産に振り替える。手間と正確さのバランスが取れるので、ひとり経理ではこちらを選ぶ会社が多いところです。
(10,000円チャージしたとき)
旅費交通費 10,000 / 普通預金 10,000
(期末に、残高が 3,240円 残っていたとき)
前払金 3,240 / 旅費交通費 3,240
(翌期首に、戻す)
旅費交通費 3,240 / 前払金 3,240
期首に戻すのは、その3,240円が来期に使われるからです。この「期末に資産へ、期首に費用へ」の往復を洗替(あらいがえ)といいます。毎年同じ動きになるので、決算チェックリストに1行足しておけば忘れません。
ただし、このやり方には前提が2つあります。
- 業務専用のカードであること。 私用と混ざっていると、そもそも全額を経費にする前提が崩れます
- 毎期同じやり方を続けること。 今年はチャージ時、来年は利用時、と揺れると、期をまたぐ費用がぶれます
なお、消費税の扱いだけは、このやり方でも省略できません。チャージ時点では仕入税額控除は取れないためです。次で見ていきます。
消費税は「チャージでは動かない」
ここが、意外と間違えやすいところです。
チャージした時点では、消費税は発生しません。 電子マネーへのチャージは、商品券やプリペイドカードを買うのと同じで、消費税の課税対象になる取引ではないからです。ここで仕入税額控除を取ってしまうと、本来より多く控除したことになります。
会計ソフトでの入力は、こう考えてください。
| タイミング | 税区分の考え方 |
|---|---|
| チャージしたとき | 消費税は動かさない(ソフトによって「対象外/不課税」「非課税仕入」のいずれかを使う) |
| 電車・バスに使ったとき | 課税仕入 10% |
| コンビニで飲食料品を買ったとき | 課税仕入 8%(軽減税率) |
| コンビニで文房具を買ったとき | 課税仕入 10% |
「対象外」と「非課税仕入」のどちらを選ぶかは、使っている会計ソフトの仕様や顧問税理士の方針に合わせてください。どちらを選んでも、チャージ時に控除を取らないという結論は変わりません。まずはそこだけ揃えておけば大丈夫です。
税抜経理をしている場合、利用時の仕訳はこうなります。
(電車代 1,240円・税抜経理)
旅費交通費 1,127 / 前払金 1,240
仮払消費税等 113
検算します。1,127 + 113 = 1,240。合っています(1,240 ÷ 1.1 = 1,127.27… の端数を切り捨てた形です)。
税込経理と税抜経理で日々の入力がどう変わるかは、税込経理と税抜経理の違いに整理してあります。税区分そのものの分け方に迷ったら、消費税の税区分の付け方もあわせてどうぞ。
インボイスはどうなるか(電車はいらない、コンビニはいる)
「ICカードで払うと領収書が出ないけれど、仕入税額控除は取れるの?」
これも、よく聞かれるところです。結論から言うと、用途によって分かれます。
電車・バスは、インボイスがなくても控除できる
税込3万円未満の公共交通機関(鉄道・バス・船舶)による旅客の運送は、インボイスの交付義務が免除されています。買う側も、帳簿の保存だけで仕入税額控除ができます(公共交通機関特例)。
日常の電車代・バス代は、ほぼここに収まります。ICカードで改札を通った分について、わざわざ領収書を集める必要はありません。
ただし、帳簿にはこの特例を使っていることが分かるように記載しておきます。会計ソフトの摘要欄に「公共交通機関特例」と入れておけば十分です。
自動販売機・券売機も、帳簿だけでよい
税込3万円未満の自動販売機・自動サービス機からの購入も、同じく帳簿の保存だけで控除できます(自動販売機特例)。カードで自販機の飲み物を買った分は、こちらです。
コンビニ・店での買い物は、レシートが必要
一方、コンビニやドラッグストアでの支払いは、公共交通機関特例の対象ではありません。店が発行するレシート(簡易インボイス)が必要になります。
ここが実務でいちばん抜けやすいところです。「ICカードで払ったから履歴に残っている」と思っても、カードの利用履歴は店のインボイスにはなりません。履歴には「どこでいくら使ったか」しか残っておらず、税率の内訳も登録番号も入っていないからです。
社員に伝えるなら、この一言で足ります。
「電車はレシート不要。お店で買ったものは、金額が小さくてもレシートをください」
なお、一定の要件を満たす事業者には、税込1万円未満の課税仕入れについて帳簿の保存だけで控除を認める経過措置(少額特例)があります。自社が対象かどうかと期限は、少額特例(1万円未満)の対象と期限で確認してください。集めたレシートの保存方法は受け取ったインボイスの保存にまとめてあります。
誰のカードで払ったかで、処理が変わる
もうひとつ、整理しておきたい分かれ道があります。そのカードは、会社のものか、社員個人のものか。
会社が用意した業務専用カード
ここまで見てきた処理そのままです。会社の資産なので、残高は会社のお金として管理します。
カードの実物は経理で保管し、誰がいつ持ち出したかを1行メモするだけで、管理はぐっとラクになります。小口現金を廃止する進め方で金庫をなくした会社は、業務用ICカードをその受け皿にしていることが多いところです。
社員個人のカードを立て替えてもらう
社員が自分のSuicaやPASMOで移動した分は、立替精算になります。この場合、チャージの話は一切出てきません。会社が精算するのは、あくまで「使った金額」だからです。
(精算を承認したとき)
旅費交通費 4,820 / 未払金 4,820
(給与と一緒に振り込んだとき)
未払金 4,820 / 普通預金 4,820
社員から「チャージした1万円を精算してほしい」と言われることがありますが、これは残高の立て替えであって経費ではないので、精算するのは実際に使った分です。ここは断りにくい場面かもしれませんが、「使った分は翌月すぐ戻すので」と伝えれば、たいてい納得してもらえます。
処理の流れは立替経費と仮払金の精算に、交通費まわりの実務は旅費交通費の精算に整理してあります。
オートチャージにしている場合
クレジットカードからのオートチャージにしていると、経路がもう1段増えます。チャージ代金の支払いが、カードの引落日まで後ろにずれるためです。
(オートチャージされた日)
前払金 3,000 / 未払金 3,000
(カードの引落日)
未払金 3,000 / 普通預金 3,000
カード払いの記帳の考え方そのものはクレジットカード払いの記帳|計上タイミングと未払金の処理と共通です。会計ソフトと連携していれば、この2行は自動で作られることも多いので、銀行口座・カードの自動連携の設定もあわせて見ておくと手数が減ります。
決算のときに見るところ
期末にやることは、多くありません。次の3つだけです。
1. カードの残高を実際に確認する
改札機、駅の券売機、アプリのいずれかで、期末日時点の残高を確認します。会社に複数枚あるなら、全部です。紙に「A用 3,240円/B用 1,180円」と書き出すだけで構いません。現金の実査と同じ考え方です。
2. 帳簿の残高と突き合わせる
前払金の残高と、実際の残高が合っているか。合わなければ、拾い漏れた利用があるか、二重に計上した利用があります。差額の探し方の順番は、現金過不足が出たときと同じ発想で追えます。
3. 残高を資産に振り替える(簡便法の場合)
前に書いた洗替の仕訳を入れます。金額が数百円なら重要性は低いところですが、「毎期やる」と決めておくほうが、毎年悩まないぶんラクです。
年間を通しての段取りは決算までにやることを逆算するに、月次でのチェックは月次決算チェックリストにまとめてあります。
電子で届く利用明細は、電子のまま保存する
もうひとつだけ。アプリやWebから利用明細をダウンロードしている場合、そのデータは電子取引にあたります。印刷して紙で綴じるだけでは、保存の要件を満たしません。
- ダウンロードしたPDF・CSVは、データのまま保存する
- 取引年月日・金額・取引先で検索できる状態にしておく
やり方は電子取引データの保存と検索要件の満たし方に手順を書きました。ファイル名を「20260331_ICカード利用明細_3240.pdf」のように決めておくだけでも、かなり整います。
紙のレシートとデータが混ざると探せなくなるので、証憑の整理・ファイリングの考え方で置き場所を先に決めておくと、あとがラクです。
今日のチェックリスト
- 会社に業務用の電子マネー・ICカードが何枚あるかを数えたか
- それぞれ誰が使っているかを書き出したか
- 日々の処理を、チャージ時に費用にするか利用時に費用にするか決めたか
- 使う科目(前払金/仮払金など)を1つに決めたか
- チャージ時の税区分で、仕入税額控除を取っていないか確認したか
- 電車・バス以外(コンビニ等)の利用で、レシートを集める運用になっているか
- 社員個人のカードは、使った分だけを精算する形になっているか
- 期末に残高を確認して資産に振り替える手順を、決算チェックリストに書いたか
- 利用明細をダウンロードしている場合、データのまま保存しているか
明日やること(まず1つだけ)
全部を今日決めようとすると、それだけで手が止まります。明日やることは、ひとつで十分です。
会社で使っている電子マネー・ICカードの残高を、今日1回だけ確認して紙に書く。
「A用 3,240円」。それだけで構いません。
この数字が出た瞬間に、判断はほとんど終わります。残高が数百円なら、日々はチャージ時に費用処理して期末だけ直せば十分だと分かる。数万円が眠っていたなら、利用時に落とす形に寄せたほうがいいと分かる。
決められなかったのは、材料がなかったからです。 数字がひとつ出れば、決められる仕事に変わります。
余力があれば、その紙に「電車=レシート不要/お店=レシートもらう」の2行を足して、カードを使う社員に見せてください。それで、来月の精算が少し軽くなります。
最後に
小さなカード1枚のことで、こんなに考えなくてはいけない。そう思ったかもしれません。
でも、迷ったのには理由があります。電子マネーは、現金でもなく預金でもない、少し新しいお金だからです。前の担当者のやり方が正しいかどうか調べようとした人だけが、この疑問にたどり着きます。何も考えずに引き継いでいたら、この記事にも来ていません。

そして、決めたやり方はあとから直せます。今期はチャージ時に落とす形で回して、来期から利用時に変える。それも、期首に切り替えて理由をメモしておけば、おかしなことにはなりません。会計のルールは、最初から完璧であることより、同じやり方を続けて、変えるときに理由を残すことを大事にしています。
一度に全部そろえなくて大丈夫です。今日は残高を1つ確認するだけ。それで、期末に慌てる分がひとつ減ります。
同じカードを前にして、同じところで手を止めている人は、たくさんいます。ひとつずつ決めていけば、ちゃんと片づきます。
本記事は一般的な実務情報です。電子マネー・前払式支払手段の会計処理や消費税の取扱い、インボイスの各特例の適用可否は、制度改正や個別の事情によって変わります。最終的な判断は、国税庁の最新の情報や、顧問税理士・所轄税務署にご確認ください。
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