忘年会の領収書と健康診断の請求書を机に並べて、福利厚生費でいいのかどうかを確かめている中小企業のひとり経理の担当者

福利厚生費になる・ならない|3つの条件と社内行事・慶弔費の線引き

年末の忘年会の領収書。全社員ぶんの健康診断の請求書。社員から届いた結婚の報告と、社内規程にある「お祝い金3万円」。

どれも「会社が社員のために出したお金」なのに、いざ科目を選ぼうとすると手が止まりますよね。福利厚生費でいいのか、交際費なのか、それとも給与になってしまうのか。ネットで調べると「常識的な範囲なら」と書いてあって、その"常識"がどこにあるのかが分からない——ひとりで経理を回していると、この曖昧さがいちばんしんどいところだと思います。

でも、迷うのはあなたの判断が甘いからではありません。福利厚生費は「これ」と決まった範囲がある科目ではなく、隣にある交際費・給与との境目で決まる科目だからです。境目のルールを知らないまま、境目の判断だけを求められていた——それだけのことです。

この記事では、福利厚生費になるかどうかを決める3つの条件と、社内行事・慶弔費・食事補助という迷いやすい3つの場面を、早見表と仕訳例で順番に整理します。今日は全部を覚えなくて大丈夫。「迷ったらこの3つを見る」という物差しを、一緒に1本つくっていきましょう。

結論:ある支出が福利厚生費になるかは、次の3つでだいたい決まります。①全従業員に等しく機会があるか(一部の人だけなら給与・交際費に寄る)、②金額が社会通念上、常識的な範囲か、③現金や商品券ではなく、現物・サービスで提供しているか(現金支給は原則として給与)。この3つのどれかを外すと、福利厚生費ではなく給与(源泉徴収の対象)や接待交際費(相手が社外の場合)に寄っていきます。まずは直近の福利厚生費の仕訳を1つ開いて、摘要に「対象は全員か」が書いてあるかを見てみましょう。

そもそも、なぜ福利厚生費は迷いやすいのか

最初に、迷いの正体だけはっきりさせておきましょう。ここが分かると、細かい判断がぐっと楽になります。

福利厚生費(法定外福利費)は、「社員の働きやすさや健康のために、会社が負担した費用」をまとめて入れる箱です。ただしこの箱は、すぐ隣に別の箱が3つ並んでいます。

つまり福利厚生費は、「これは福利厚生費だ」と単独で判定する科目ではなく、「給与でもなく、交際費でもなく、法定福利費でもないもの」として決まっていく科目です。だから、ひとつの支出を見ただけでは決まらない。これは知識の問題ではなく、科目の性質の問題です。

ここでいう源泉徴収とは、給与などを支払うときに会社が所得税をあらかじめ差し引いて、本人に代わって納める仕組みのことです。ある支出が「給与」とみなされると、その分も給与計算に乗せて税額を計算し直す必要が出てきます。福利厚生費かどうかにこだわる理由の多くは、ここにあります。

福利厚生費になる3つの条件

福利厚生費になるかどうかを全員が対象か・金額は常識的か・現金ではないかの3つの条件で確かめる図
迷ったらこの3つ。ひとつでも外れると、給与や交際費に寄っていく

判断のときは、頭の中でこの3つを順番に当ててみてください。

条件1:全従業員に等しく機会があるか

いちばん大事な条件です。役員だけ・特定の部署だけ・仲のいい人だけが対象だと、福利厚生費ではなく、その人への給与(または交際費)に寄ります。

ポイントは「全員が実際に使ったか」ではなく、「全員に機会が開かれているか」です。全社員が対象の忘年会に、都合で3人が欠席した——これは問題ありません。逆に、最初から「営業部だけ」と決めていたら、機会が等しくないことになります。

条件2:金額が社会通念上、常識的な範囲か

「常識的な範囲」というあいまいな言い方が出てくるのは、ここです。金額の線がすべてきっちり決まっているわけではないため、同業・同規模の会社が普通に負担する程度かどうかという見方になります。

ただし、場面によっては国税庁が具体的な目安を示しているものがあります(社員旅行、食事の支給など)。目安があるものは、それに合わせるのがいちばん安全です。この記事の後半で見ていきます。

条件3:現金・換金性のあるものではないか

現金で渡すと、原則として給与になります。商品券・ギフトカードのように、換金性が高いものも同じ扱いに寄ります。

たとえば「残業した人に夜食を出す」なら福利厚生費に寄りますが、「夜食代として現金1,000円を渡す」なら給与に寄る、ということです。現物やサービスとして提供するのが、福利厚生費の基本形だと覚えておくと迷いません。

なお、慶弔見舞金(結婚祝金・香典・災害見舞金など)は現金で渡すのが普通ですが、社内規程に基づき、社会通念上相当な金額であれば、給与課税されない扱いとされています。これは「現金は原則ダメ」の例外として押さえておきましょう。

場面別の早見表

言葉だけだと分かりにくいので、よくある場面を並べてみます(一般的な目安です。最終判断は個別の事情と最新の通達によります)。

場面寄りやすい科目ひとことメモ
全社員が対象の定期健康診断(会社が直接支払)福利厚生費全員対象・常識的な範囲
役員だけの高額な人間ドック給与など対象が限られると給与に寄る
全社員参加の忘年会・新年会(常識的な範囲)福利厚生費一部の人だけなら交際費・給与に寄る
社員旅行(4泊5日以内・参加50%以上)福利厚生費国税庁の目安あり(後述)
取引先を招いた懇親会接待交際費相手が社外
社員本人の結婚祝金(規程どおり・相当額)福利厚生費慶弔見舞金規程が根拠になる
取引先へのご祝儀・香典接待交際費相手が社外
残業時に会社が用意した夜食(現物)福利厚生費現金で渡すと給与に寄る
昼食代の補助(本人が半分以上負担・会社負担が一定額以下)福利厚生費基準を超えると給与課税(後述)
制服・作業着の支給福利厚生費業務上必要なもの
社員旅行に行かない人へ現金を支給給与現金なら給与に寄る
社会保険料・労働保険料の会社負担分法定福利費福利厚生費とは別の科目

こうして並べてみると、分かれ目はいつも同じ3点です。誰が対象か・いくらか・現金か現物か。同じ「飲食の領収書」でも、社内の全員向けなら福利厚生費、社外向けなら交際費、一部の人だけなら給与——という具合に、箱が変わっていきます。

科目選びそのものに迷うときは、勘定科目の選び方|迷ったときの判断軸と科目一覧もあわせて見てみてください。

迷いやすい場面①:社内行事(忘年会・社員旅行)

社内行事は、ひとり経理がいちばん多く相談を受ける場面だと思います。

忘年会・新年会・歓送迎会は、全社員に案内していて、金額が常識的な範囲であれば福利厚生費に寄ります。逆に、役員や一部の人だけで開いた会や、取引先を招いた会は、交際費・給与のほうに寄ります。案内メールや社内掲示を残しておくと、「全員に機会があった」ことの説明がしやすくなります。

社員旅行(従業員レクリエーション旅行)は、国税庁が目安を示しています。次の2つをどちらも満たすものは、原則として給与課税されない(=福利厚生費として扱える)とされています。

ただし、これを満たしていても、会社の負担額が大きすぎるものや、役員だけで行くもの不参加者に金銭を支給するものは、給与として扱われることがあります。「日数と人数さえ満たせば無条件でOK」ではない、という点だけ気に留めておきましょう。

企画の段階で日数と参加率が読めるので、旅行を決める前に一度確認するのが、いちばん手戻りの少ない進め方です。

迷いやすい場面②:慶弔費(社内と社外で箱が変わる)

慶弔費は、相手が社内か社外かで、入る箱がきれいに分かれます

社内向けの慶弔見舞金が福利厚生費として扱われ、本人の給与にもならないためには、社内規程(慶弔見舞金規程)があり、その規程どおりの金額で、社会通念上相当な額であることが土台になります。規程がなく、そのときどきの気持ちで金額を決めていると、「特定の人への給与では」と見られやすくなります。

とはいえ、規程がないこと自体を責める話ではありません。中小企業では、慶弔のたびに社長が金額を決めている、というのはよくあることです。もし規程がないなら、次に慶弔があったときに、そのときの金額と理由をメモに残しておく。それが積み上がれば、あとから規程の形に整えられます。今日いきなり規程を作らなくて大丈夫です。

なお、永年勤続表彰の記念品創業記念品にも、給与課税されないための考え方(記念品としてふさわしいもので、換金性がなく、社会通念上相当な範囲など)があります。表彰を予定しているときは、現金や商品券ではなく現物にできないか、早めに検討しておくと安心です。

迷いやすい場面③:食事の補助(金額の基準がある)

昼食代の補助や社員食堂の負担は、具体的な金額基準があるので、迷ったら基準に当てはめれば済みます。会社が食事を支給したとき、次の2つをどちらも満たせば、給与として課税されない(=福利厚生費で処理できる)とされています。

たとえば1食500円の弁当を月20回、会社が半分の250円を負担するなら、会社負担は月5,000円。半分以上を本人が負担していても、月額3,500円を超えるため、この場合は超えた分だけでなく会社負担額の全額が給与として扱われる点に注意が必要です(「超えた分だけ課税」ではありません)。

一方、残業や宿日直をした人に支給する食事は、この基準とは別に、実費相当であれば課税されない扱いとされています。日常の昼食補助と、残業時の夜食は、分けて考えると整理しやすくなります。

金額基準は改正されることがあるため、実際に制度を入れるときは、国税庁のタックスアンサーで最新の金額を確認しておくと安心です。

実際の仕訳例

判断ができたら、あとは記帳です。よくあるパターンを見てみましょう(金額・科目名は一例です。自社の科目体系に合わせてください)。

例1:全社員対象の定期健康診断(5名・60,000円・普通預金から支払)

(借方)福利厚生費 60,000 / (貸方)普通預金 60,000
摘要:定期健康診断 全社員5名 ○○クリニック

例2:全社員参加の忘年会(8名・48,000円・カード払い)

(借方)福利厚生費 48,000 / (貸方)未払金 48,000
摘要:忘年会 全社員8名(案内は全員へ) △△食堂

例3:社員の結婚祝金(30,000円・現金・慶弔見舞金規程あり)

(借方)福利厚生費 30,000 / (貸方)現金 30,000
摘要:結婚祝金(慶弔見舞金規程に基づく) 社員○○

例4:取引先の葬儀への香典(10,000円・現金)

(借方)接待交際費 10,000 / (貸方)現金 10,000
摘要:○○商事 香典(社外)

例5:残業時の夜食(3名・2,400円・現金)

(借方)福利厚生費 2,400 / (貸方)現金 2,400
摘要:残業夜食 3名(現物支給)

仕訳の形そのものは、どれもシンプルです。大事なのは金額の左右ではなく、摘要に「対象(全員か/社外か)・目的・人数」を残しておくこと。半年後の自分が見返したときも、税理士に聞かれたときも、この一行があるだけで説明が一瞬で済みます。

取り違えると、何が変わる?

福利厚生費にすべきものを交際費にしてしまうと、会社の規模によっては、税金の計算から一部が除かれる扱いになってしまうことがあります(交際費の扱いは交際費の損金不算入|中小企業の800万円枠と1人1万円の飲食費で整理しています)。

逆に、実質は給与にあたるものを福利厚生費にしてしまうと、源泉徴収がもれることになります。こちらは本人の税額にも関わるため、あとから直すと年末調整や給与計算にも手が及びます。給与計算の全体像は給与計算の基本|総支給から手取りまでの流れを順番ににまとめています。

ただ、これは「どちらが得か」を読者ひとりで攻めて判断する話ではありません。実態に沿った科目を選び、根拠(対象・金額・現物かどうか)を摘要に残しておく——それがいちばん安全で、結局いちばん楽な道です。一部の人だけが対象のもの金額が大きいものは、自己判断で確定させず、印をつけて顧問税理士に相談するのが安心です。

福利厚生費で迷ったときのチェックリスト

社員向けの支出で手が止まったら、上から順に確認してみてください。

明日やること(まず1つだけ)

全部の場面を一度に整理しようとすると、それだけで気が遠くなります。明日やることは、たったひとつで十分です。

会計ソフトで「福利厚生費」を検索して、直近の3件だけ摘要を見てみる。

そこに「全社員」「○名」といった対象の記載がなければ、思い出せる範囲で足しておく。それだけで、次に同じ支出が出たときの判断が速くなりますし、決算前に税理士から「これは何ですか」と聞かれる回数も減ります。

新しい規程を作る必要も、過去にさかのぼって直す必要もありません。今日から先の1件を、少していねいに書く。それだけで十分に前に進みます。

最後に

福利厚生費の判断がむずかしいのは、そこに「会社が社員をどう大切にするか」という気持ちが乗っているからだと思います。忘年会も、健康診断も、お祝い金も、もとは誰かが「社員のために」と決めたことです。それを冷たく仕分けるのは、少し気が重い作業かもしれません。

福利厚生費の摘要に対象と目的を書き終えて、判断の物差しができ穏やかな表情になっているひとり経理の担当者

でも、科目を正しく選ぶことは、その気持ちを否定することではありません。むしろ、あとから「これは何だったのか」と問われたときに、会社と社員をきちんと守るための準備です。あなたが摘要に残す一行が、その役割を果たします。

「全員か・常識的か・現物か」。物差しは、これだけです。今日この3つが頭に入ったなら、次に同じ領収書を見たとき、手はもう止まりません。完璧に覚えていなくて大丈夫。この記事をもう一度開けばいいだけです。

本記事は一般的な実務情報です。福利厚生費と給与・交際費の区分、社員旅行や食事支給の金額基準は、個別の事情や最新の通達によって異なり、改正されることもあります。最終的な判断は、国税庁の情報や、顧問税理士・所轄税務署にご確認ください。

よければ、こちらも

ほかの記帳・仕訳の手順も、記事一覧から少しずつ一緒に整理していきましょう。

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