
期ズレを防ぐ|計上月を間違えない発生主義の考え方
月末の締め作業。「この外注費、請求書は6月30日付だけど、支払いは7月。うちの帳簿では何月に入れるんだろう」——請求の日付と、実際にお金が動いた月がずれていると、どの月に計上すればいいのか、ふと手が止まりますよね。ひとりで経理を回していると、こうした「計上月の迷い」は毎月のように出てきます。
でも、計上月に迷うのは、あなたの判断が甘いからではありません。多くは「いつの月に計上するか」を決める基準(=発生主義)が、自分の中で一本に定まっていないだけです。基準さえ決まっていれば、支払いの月に振り回されず、「これは○月分」と淡々と決められます。この記事では、期ズレ(計上月のずれ)を防ぐための発生主義の考え方と、月末にサッと確認できるチェックの型を一緒に整理します。
結論:費用も収益も、お金が動いた月ではなく「そのモノ・サービスを受け取った/提供した月」に計上する(発生主義)のが基本です。迷ったら「いつ使った?いつ引き渡した?」を起点に月を決め、支払・入金の月とズレる分は前払費用・未払費用などで調整します。まずは月末に「今月使ったのに支払いが翌月のもの」「今月もらったのに入金が翌月のもの」を1回見に行くだけで、大きな期ズレは防げます。税務・会計の最終的な判断は、顧問税理士・所轄税務署にご確認ください。
期ズレとは何か|「お金の月」と「取引の月」がずれること
期ズレとは、本来計上すべき月と、実際に計上した月がずれてしまうことです。多くは、お金が動いた月につられて計上してしまうことで起きます。
- 6月に使った電気・通信・外注のサービスなのに、請求と支払が7月だから7月に計上してしまう
- 6月に納品して引き渡した売上なのに、入金が7月だから7月の売上にしてしまう
- 1年分まとめて払った保険料を、払った月に全額費用にしてしまう
経理の基本ルールでは、費用や収益は「お金の出入り」ではなく「取引の事実(使った・引き渡した)」が起きた月に計上します。これを発生主義といいます。反対に、お金が動いた月で計上する考え方を現金主義と呼びますが、法人の会計・申告では原則として発生主義が求められます。
期ズレが起きると、月ごとの利益が実態とずれて見え、月次決算の数字が信用しづらくなります。決算をまたぐと、その期の利益や税額そのものに影響することもあるため、月次のうちに小さく直しておくのが安心です。
迷ったときの判断軸|「いつ使った・いつ引き渡した」で決める

計上月に迷ったら、支払日や入金日をいったん脇に置いて、次の問いから入ります。
費用は「そのサービス・モノを使った(受けた)月」
- 電気・水道・通信・家賃・リース → 使った(利用した)月。6月分の電気代なら、請求・支払が7月でも6月の費用
- 外注・業務委託 → 作業してもらった(役務の提供を受けた)月。6月に納品された作業なら6月
- 仕入・消耗品 → 原則、引き渡しを受けた(納品された)月
収益は「相手に引き渡した・提供し終えた月」
- 商品の販売 → 納品・引き渡した月。6月に出荷・検収なら、入金が7月でも6月の売上
- サービスの提供 → 役務を提供し終えた月(契約により月末時点の進行分など考え方が分かれるため、判断に迷うものは顧問税理士に確認)
起点はいつも「お金の月」ではなく「取引の月」。この一本を決めておくだけで、支払サイトや入金のタイミングに振り回されなくなります。
支払・入金とズレる分は「前払・未払」で橋渡しする
「使った月」で計上すると、当然その月にはまだ払っていない(もらっていない)ことがあります。そのズレを埋めるのが、前払費用・未払費用などの経過勘定です。難しく考えず、「取引の月に費用・収益を立てて、お金の動きは別で追う」ための橋渡し、と捉えれば十分です。
- 未払費用/未払金:使ったのに、まだ払っていない → その月に費用を立て、相手勘定を未払で計上(例:6月分の外注費、支払は7月)
- 前払費用:先に払ったが、これから使う分 → 払った月に全額費用にせず、使う月に按分(例:1年分前払いした保険料)
- 未収入金/売掛金:引き渡したのに、まだもらっていない → その月に売上を立て、相手勘定を未収・売掛で計上
- 前受金:先にもらったが、これから提供する分 → もらった月に売上にせず、提供する月に計上
細かい仕訳の切り方は、決算整理仕訳の記事でまとめて確認できます。月次でここまで丁寧にやるか、決算でまとめて調整するかは会社の方針次第ですが、金額の大きいもの・決算をまたぐものだけでも押さえておくと、期末に慌てません。
具体例:6月末の締めで期ズレをチェックしてみる
言葉だけだと不安なので、よくある月末を当てはめてみましょう。
6月分を締めるとき、7月頭に確認する場合
- 6月に使ったのに支払いが7月のもの:6月分の外注費8万円(請求書は6/30付、支払は7/25)→ 6月に費用計上し、未払金で処理。7月の支払時に未払金を消す。
- 1年分まとめて払ったもの:6月に翌年5月分までの保険料12万円を支払 → 6月に全額費用にせず、6月分(1か月分)を費用、残りを前払費用に。毎月使う分を按分して振り替える。
- 6月に引き渡したのに入金が7月の売上:6/28納品・検収済みの売上15万円(入金は7/31)→ 6月の売上として計上し、売掛金で処理。
- 6月にもらったが提供は7月以降のもの:6月に受け取った7月開催イベントの前受金 → 6月は売上にせず前受金に。提供する7月に売上へ。
ポイントは、「お金が動いた月」ではなく「取引が起きた月」で並べ直すこと。支払・入金の月とのズレは、未払・前払・売掛・前受で橋渡しすれば、6月の利益が実態どおりに見えるようになります。
現場で回すコツ(毎月ラクに続ける形にする)
- 金額の大きいもの・毎月定額のものから押さえる:家賃・リース・保険・通信・主要な外注など、期ズレの影響が大きいものを優先。少額の消耗品まで神経質にならなくて大丈夫
- 「決算をまたぐ月」は特に丁寧に:期末月とその前後は、1か月のズレが利益や税額に直結しやすい。ここだけは前払・未払を漏らさない
- 請求書に「対象月」をメモする:受け取った請求書に「6月分」と一言書いておくと、支払月に惑わされず計上できる
- 前払費用は「按分メモ」を残す:1年分前払いなどは、毎月いくら振り替えるかを一覧化。翌月以降の自分が迷わない
- 迷ったら仮で立てて印をつける:判断に迷う取引で手を止めず、いったん計上して印をつけ、顧問税理士への確認事項リストへ
期ズレ防止チェックリスト
今日すべてを完璧に、ではなく、締めのときに上から順で。できるところまでで十分です。
- まずここだけ(最低ライン)
- 今月「使ったのに支払いが翌月」の費用がないか見た(外注・通信・家賃など)
- 今月「引き渡したのに入金が翌月」の売上がないか見た
- 金額・期間で優先確認
- 1年分・数か月分まとめて払ったものを、前払費用で按分したか
- 先にもらった代金(前受金)を、提供前に売上にしていないか
- ズレの橋渡し
- 使った月に費用を立て、相手勘定を未払(未払金・未払費用)にしたか
- 引き渡した月に売上を立て、相手勘定を売掛金・未収入金にしたか
- 決算をまたぐとき
- 期末月をまたぐ取引を、翌期に押し出していないか確認した
- 迷ったとき
- 判断に迷う計上月は「仮+印」で通過し、顧問税理士の確認事項に回したか
明日やること(まず1つだけ)
今月分を全部見直そうとせず、明日はまず「今月使ったのに、支払いが翌月になる費用」を1つだけ探してみましょう。定額の家賃でも、通信費でも、外注費でも構いません。それを「使った月」に費用として立て、未払で橋渡しする——この1件ができれば、発生主義の感覚は自然と手に馴染みます。
最後に
期ズレは、派手なミスではありません。だからこそ「これで合っているのかな」という小さな引っかかりが、月末のたびに胸の奥に残りやすい作業です。それをひとりで、他の業務の合間に判断し続けるのは、簡単なことではありません。

でも、計上月に迷うのは判断基準の問題であって、あなたの力不足ではありません。「お金が動いた月ではなく、使った月・引き渡した月で計上する」。この一本を持てば、支払や入金のタイミングに振り回されず、毎月の数字が実態どおりに見えてきます。全部を一度に完璧に直さなくて大丈夫。金額の大きいもの、決算をまたぐものから、ひとつずつ整えていけば十分です。今日ひとつ計上月を正しく決められたなら、それはもう、期ズレを防ぐ習慣の始まりです。
本記事は一般的な実務情報です。税務・会計の取扱いは個別の事情や最新の通達によって異なります。最終的な判断は、顧問税理士・所轄税務署にご確認ください。
よければ、こちらも
期ズレの調整をまとめてやるなら 前払費用・未払費用など決算整理仕訳の総点検 を、月末の締めそのものを軽くしたいなら 月初の記帳を漏れなく回す段取り を、月ごとの利益の読み方は 損益計算書の見方 を、記事一覧からあわせて一緒に整理していきましょう。