
借方・貸方の覚え方|仕訳で迷わなくなる基本の考え方
「借方は左、貸方は右」。 それは覚えたのに、いざ伝票を前にすると手が止まる。「この経費、借方に書くんだっけ、貸方だっけ」——通帳を見ながら、何度も同じところで迷ってしまう。ひとりで経理を回していると、この瞬間はとても身近なものですよね。
でも、ここでつまずくのは、あなたの理解が足りないからではありません。 多くの入門書が「借方・貸方」という言葉の意味から説明しようとするからです。実はあの2つの言葉自体に、深い意味はありません。大事なのは「言葉」ではなく「どの箱に入れるか」という考え方のほうです。
この記事では、借方・貸方を丸暗記するのではなく、「お金やモノが増えたら、どっちに書くのか」を箱のイメージでつかむ方法を整理します。今日は全部覚えなくて大丈夫です。まずは「迷ったときに立ち返る順番」を一緒に作っていきましょう。
結論:仕訳は「借方=左、貸方=右」という位置だけ先に決めて、あとは5つの箱(資産・負債・純資産・費用・収益)が増えたか減ったかで書く側を決めます。覚える軸はひとつだけ——「資産(お金・モノ)と費用が増えたら借方(左)」。これさえ握っておけば、残りは反対側に書くだけで仕訳の大半は組み立てられます。なお、勘定科目の選択や税務上の取扱いは個別事情で変わるため、判断に迷う点は顧問税理士・所轄税務署にご確認ください。
「借方・貸方」という言葉に意味を求めない
最初に、いちばん気持ちが軽くなる話をします。 「借方」「貸方」という言葉には、覚えるべき意味はありません。
「借りる」「貸す」という漢字につられて、「これは借金だっけ?」と考え始めると、かえって混乱します。これは明治時代の翻訳の名残で、今ではただの「左」「右」を指す記号くらいに思って大丈夫です。
- 借方(かりかた)= 左側
- 貸方(かしかた)= 右側
迷ったときの覚え方も、言葉の意味ではなく形で十分です。「かりかた」の「り」は左にはらう、という語呂や、「かりかた=かぎ(左に曲がる)」など、自分が思い出せる引っかかりをひとつ持っておけば足ります。 ここに時間をかける必要はありません。本当に大事なのは、次の「箱」の話です。
仕訳は「5つの箱」のうつし替え

会社のお金やモノの動きは、すべて次の5つの箱(グループ)のどれかに入ります。
- 資産:現金・預金・売掛金・備品など、会社が持っているプラスのもの
- 負債:買掛金・借入金・未払金など、これから払う義務
- 純資産:資本金など、会社の正味の元手
- 費用:仕入・家賃・通信費など、出ていくコスト
- 収益:売上・受取利息など、入ってくるもうけ
仕訳とは、取引が起きたときに「どの箱が増えて、どの箱が減ったか」を、左右に振り分けて記録する作業です。 そして、書く側のルールはたったひとつにまとめられます。
資産が増えたら左(借方)。費用が増えたら左(借方)。
それ以外(負債・純資産・収益)が増えたら、右(貸方)。
「減った」ときは、それぞれ反対側に書く。
つまり、覚える軸は「資産(お金・モノ)と費用が増えたら左」だけ。 あとはその裏返しなので、5つすべてを丸暗記する必要はありません。
迷ったときの「3つの問い」
実際の伝票で手が止まったときは、頭の中で次の順番に問いかけてみてください。これが仕訳を組み立てる型になります。
問い1:何が増えた・減ったのか
まず、その取引で動いたものを言葉にします。 「現金が出ていった」「売上が立った」「備品が手に入った」——日常の言葉で構いません。難しい勘定科目に変換するのは後でいいので、まず事実を押さえます。
問い2:それは5つの箱のどれか
次に、動いたものが「資産・負債・純資産・費用・収益」のどれに当たるかを当てはめます。
- 現金・預金・備品 → 資産
- 家賃・仕入・通信費 → 費用
- 売上 → 収益
- 借入金・買掛金 → 負債
慣れないうちは、この振り分けがいちばん迷うところです。ここは 勘定科目の選び方 とあわせて、自社でよく使う科目から少しずつ覚えていけば十分です。
問い3:増えたのか、減ったのか
最後に「増えた/減った」を判定し、書く側を決めます。
- 資産・費用が増えた → 借方(左)
- 資産・費用が減った → 貸方(右)
- 負債・純資産・収益が増えた → 貸方(右)
- 負債・純資産・収益が減った → 借方(左)
仕訳は必ず「左と右が同じ金額」になります。片側を決めれば、もう片方は「その取引のもう一方の動き」を反対側に書くだけ。左右の合計が一致していれば、形としては合っています。
具体例で1つずつ確かめる
言葉だけだと不安なので、よくある取引で実際に当てはめてみましょう。
例1:文房具を現金1,000円で買った
- 動いたもの:文房具(費用)が増えた/現金(資産)が減った
- 費用が増えた → 借方(左)。資産が減った → 貸方(右)
| 借方(左) | 貸方(右) |
|---|---|
| 消耗品費 1,000 | 現金 1,000 |
例2:売上として5万円が預金に振り込まれた
- 動いたもの:預金(資産)が増えた/売上(収益)が増えた
- 資産が増えた → 借方(左)。収益が増えた → 貸方(右)
| 借方(左) | 貸方(右) |
|---|---|
| 普通預金 50,000 | 売上 50,000 |
例3:請求書が届いた仕入代金3万円を、まだ払っていない(買掛)
- 動いたもの:仕入(費用)が増えた/買掛金(負債)が増えた
- 費用が増えた → 借方(左)。負債が増えた → 貸方(右)
| 借方(左) | 貸方(右) |
|---|---|
| 仕入 30,000 | 買掛金 30,000 |
3つとも、同じ順番(問い1→2→3)で組み立てています。 パターンを暗記するのではなく、毎回この順番をなぞることが、迷わなくなる近道です。
仕訳に迷ったときのチェックリスト
伝票の前で手が止まったら、上から順に確認してみてください。
- その取引で「増えた・減ったもの」を、ふつうの言葉で言えたか
- それは資産・負債・純資産・費用・収益のどれに当たるか決めたか
- 「資産・費用が増えたら左」の軸に当てはめたか
- 反対側(もう一方の動き)を書いたか
- 借方の合計と貸方の合計が、同じ金額になっているか
- 勘定科目に迷ったら、自社で前に使った似た取引を探したか
- それでも判断が割れる取引は、保留にして顧問税理士に確認する印をつけたか
明日やること(まず1つだけ)
全部のパターンを覚えようとすると、それだけで気が遠くなります。 明日やることは、自社で先月いちばん多かった取引を1つ選び、上の「3つの問い」で組み立て直してみるだけで十分です。
たとえば「経費の支払い」でも「売上の入金」でも構いません。すでに会計ソフトが自動で付けた仕訳を、「なぜこの科目が左なのか」と問い直してみる。一度自分の言葉で説明できた取引は、次から迷わなくなります。 1日1パターンずつでも、確実に手が止まらなくなっていきます。
最後に
仕訳は、簿記の入り口でつまずきやすい、地味で根気のいる作業です。 正解が見えにくいまま、「これで合っているのかな」と何度も同じ画面に戻る。その不安を抱えながら、ひとりで帳簿に向き合っているのは、決して簡単なことではありません。

でも、借方・貸方は「言葉の意味」ではなく「どの箱が増えたか」で考えれば大丈夫です。 今日、ひとつの取引を自分の言葉で説明できたなら、それはもう仕訳が「こなせる作業」に変わり始めた証拠です。完璧でなくて大丈夫。今日できたところまでで、十分前に進んでいます。
本記事は一般的な実務情報です。税務・会計の取扱いは個別の事情や最新の通達によって異なります。最終的な判断は、顧問税理士・所轄税務署にご確認ください。
ほかの記帳・仕訳の手順も、記事一覧から少しずつ一緒に整理していきましょう。