
賞与の計算|社会保険料と源泉税の引き方を迷わず整理
夏の賞与のシーズン。「賞与から引く社会保険料って、毎月の給与と同じでいいんだっけ……。源泉税も、いつもの月額表を見ればいいの?」——支給日が近づくと、賞与明細を前にふと手が止まりますよね。金額の大きい支給だからこそ、「引く数字を間違えたくない」という緊張が、いつもの給与計算より少しだけ強くなる。ひとりで経理と給与を回していると、その落ち着かなさは、とても身近だと思います。
でも、賞与の計算で迷うのは、あなたがいい加減だからではありません。賞与は、社会保険料も源泉所得税も「毎月の給与とは計算の土台が違う」からです。年に1〜2回しか触らないうえに、月給とルールがずれているのだから、毎回「あれ、どうだったかな」となるのは当たり前なのです。逆に言えば、3つの保険料・税金それぞれの“土台になる数字”を一度つかんでしまえば、賞与のたびに一から悩まずに済みます。この記事では、賞与から引くものを社会保険料・雇用保険料・源泉所得税に分けて、計算の順番と一緒に整理します。今日は制度を丸暗記する必要はありません。まずは「それぞれ、どの数字を土台にするのか」という一点を、はっきりさせていきましょう。
結論:賞与から引くのは主に3つで、それぞれ土台が違います。①社会保険料(健康保険・厚生年金)は「標準賞与額(=賞与額の1,000円未満を切り捨てた額)× 料率」を労使折半。②雇用保険料は「賞与額 × 雇用保険料率(労働者負担分)」。③源泉所得税は「賞与から社会保険料を引いた額 × 税率」で、その税率は“前月の給与(社会保険料等控除後)”と扶養親族等の数から〈賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表〉で求める——ここが毎月の月額表とちがう最大のポイントです。支給後は、社会保険の賞与支払届(原則5日以内)の提出も忘れずに。料率・税額表は毎年見直されるので、必ず最新版で計算します。金額の大きい支給なので、迷ったら顧問税理士・社会保険労務士に確認しておくと安心です。
いま何が起きているか:賞与は「月給と土台がずれている」から迷う
細かい手順に入る前に、全体像をつかんでおきましょう。賞与計算のややこしさの正体は、同じ「給与から引くもの」なのに、賞与では計算の土台が月給とずれていることです。

- 社会保険料(健康保険・厚生年金):毎月の給与では「標準報酬月額」というランクで決まりますが、賞与では標準賞与額(実際に支給した賞与額の1,000円未満を切り捨てた額)に料率をかけます。会社と本人で半分ずつ負担(労使折半)します。
- 雇用保険料:土台は賞与の支給額そのもの。これに雇用保険料率(労働者負担分)をかけます。ここは毎月の給与と同じ考え方です。
- 源泉所得税:ここがいちばんの落とし穴です。賞与の源泉税は、いつもの月額表を使いません。「前月の給与(社会保険料等を引いた後)」と扶養親族等の数から専用の表で税率(賞与の金額に乗ずべき率)を求め、それを賞与から社会保険料を引いた額にかけて計算します。
つまり、賞与から引く3つは、それぞれ見る数字が「標準賞与額」「賞与額」「前月の給与」とバラバラなのです。ここが頭に入ると、「今どの数字を土台に計算しているのか」で迷わなくなります。まずはこの三段構えだけ、置いておけば大丈夫です。
社会保険料:標準賞与額に料率をかけて、労使折半で引く
まず社会保険料(健康保険・厚生年金)です。手順はシンプルで、月給の計算より迷いにくい部分です。
- 標準賞与額を出す:支給する賞与額の1,000円未満を切り捨てます(例:432,800円 → 432,000円)。この切り捨て後の額が標準賞与額です。
- 料率をかける:標準賞与額に、健康保険料率・厚生年金保険料率をかけます。厚生年金保険料率は全国一律、健康保険料率は加入している協会けんぽの都道府県・健康保険組合によって異なります。必ず最新の保険料額表で確認します。
- 労使折半で、本人負担分を引く:算出した保険料の半分が本人負担分。賞与明細で引くのは、この本人負担分です。40歳以上65歳未満の人は、健康保険料に介護保険料が上乗せされます。
賞与の社会保険料には、上限(いくらまでを保険料計算の対象にするか)があります。健康保険は年度(毎年4月〜翌年3月)の累計で573万円まで、厚生年金は1回の賞与につき150万円までが上限で、これを超える部分には賞与の保険料はかかりません。多くの中小企業では上限に達しないことが多いですが、金額の大きい賞与を出す場合や、年度に何度も賞与がある場合は、頭の片隅に置いておきましょう。
なお、支給月とその翌月末までに退職する人の賞与は、社会保険料の扱いが例外的になることがあります(資格喪失月の賞与は保険料がかからない等)。退職が絡む賞与は自己判断で抱え込まず、年金事務所や顧問社労士に一度確認しておくと安心です。
雇用保険料:賞与額そのものに料率をかける
次に雇用保険料です。ここは毎月の給与と同じ考え方なので、いちばんシンプルです。
- 計算式:賞与の支給額 × 雇用保険料率(労働者負担分)
- 標準賞与額のような「切り捨て」や「ランク」はありません。支給額そのものが土台です。
- 雇用保険料率は厚生労働省が毎年度公表し、一般の事業と建設業などで率が異なります。年度替わりは最新の率に差し替えます。
- 賞与から預かった雇用保険料は、毎月納めるわけではなく、労災保険料と合わせて年1回の年度更新(毎年6/1〜7/10)でまとめて精算・納付します。
「社会保険料は標準賞与額(1,000円未満切り捨て)、雇用保険料は賞与額そのもの」——この土台の違いだけ押さえておけば大丈夫です。
源泉所得税:土台は「前月の給与」。月額表は使わない
ここが賞与計算でいちばん間違えやすいところです。落ち着いて、順番に進めましょう。賞与の源泉所得税は、いつもの月額表(給与用の税額表)を使いません。専用の〈賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表〉を使います。
手順はこうです。
- 前月の給与を用意する:源泉税を計算する賞与の前月に支払った給与の、社会保険料等を差し引いた後の金額を確認します。
- 税率(賞与の金額に乗ずべき率)を求める:〈算出率の表〉で、①の金額と、その従業員の扶養親族等の数(扶養控除等申告書で確認)が交わる欄を見て、税率を読み取ります。
- 賞与の課税対象額に税率をかける:賞与の支給額から社会保険料(健康保険・厚生年金・雇用保険)を引いた額に、②で求めた税率をかけます。これが賞与から引く源泉所得税です。
ポイントは、税率は「前月の給与」から決まるのに、税率をかける相手は「今回の賞与(社保控除後)」という二段構えです。ここを取り違えて、賞与額から直接いつもの月額表で引いてしまう——というのが、いちばん多いつまずきです。
例外に注意:次のようなケースは、上の原則どおりに計算しません。国税庁の案内や給与ソフトの計算方法に従い、迷ったら顧問税理士に確認します。
- 前月に給与の支払いがない(前月給与ゼロ)
- 賞与の額(社保控除後)が、前月給与(社保控除後)の10倍を超える
これらに当てはまると、月額表を使う特殊な計算に切り替わります。該当しそうなときは、無理に手計算せず、給与ソフトの賞与計算機能か、税理士の確認に回すのが安全です。
計算例:40万円の賞与を、順番に計算してみる
言葉だけだと不安なので、流れを一度なぞってみましょう。料率・税率は毎年変わるため、ここでは具体的な数値は入れず「どの数字に、何をかけるか」の順番をたどります。実際の率は、必ず最新の保険料額表・算出率の表で確認してください。
前提:賞与の支給額 40万円/40歳未満/扶養親族なし、と仮定します。
- 社会保険料(健康保険・厚生年金)
- 標準賞与額 = 400,000円(すでに1,000円未満なし)
- 標準賞与額 × 健康保険料率・厚生年金保険料率 → その半分(本人負担分)を引く
- 雇用保険料
- 400,000円(賞与額そのもの)× 雇用保険料率(労働者負担分)を引く
- 源泉所得税
- 前月給与(社保控除後)と扶養0人 → 〈算出率の表〉で税率を読み取る
- (400,000円 − 上の①②で引いた社会保険料の合計)×その税率 = 源泉所得税
- 差引支給額(手取り)
- 400,000円 −(社会保険料 + 雇用保険料 + 源泉所得税)= 賞与の手取り
大事なのは金額そのものより、「①②は賞与額から、③の税率は前月給与から」という土台の切り替えを、順番どおりに通すことです。この順番を一度手でなぞると、次からは給与ソフトの出した数字も「なぜこの額か」が読めるようになります。
賞与を支給した後にやること
賞与は「計算して引いて終わり」ではありません。支給後の手続きも、セットで押さえておきましょう。
- 賞与支払届の提出:社会保険では、賞与を支給したら原則5日以内に、日本年金機構へ賞与支払届を提出します(電子申請・郵送など)。これを出すことで、標準賞与額が記録され、将来の年金額にも反映されます。提出漏れがないよう、支給日とセットでカレンダーに入れておきましょう。
- 源泉所得税の納付:賞与から預かった源泉所得税は、給与分の源泉税と合わせて納付します。毎月納付の会社は翌月10日まで、納期の特例を受けている会社は、1〜6月支給分を7月10日、7〜12月支給分を翌年1月20日にまとめて納めます。夏の賞与分は、ちょうど7月10日納付(納期の特例の場合)に含まれることが多い時期です。
- 年度更新での精算:賞与から預かった雇用保険料も、年1回の労働保険の年度更新で精算されます。賞与額も「賃金総額」に含めて集計します。
つまずきやすいポイント
賞与のたびに「あれ?」となりやすいところを、先回りでまとめておきます。
- 源泉税を、いつもの月額表で引いてしまう:賞与は専用の〈算出率の表〉。土台は前月の給与です。
- 社会保険料を、賞与額そのものにかけてしまう:社保は1,000円未満を切り捨てた標準賞与額が土台。雇用保険料は賞与額そのもの、と土台が違います。
- 前月給与がない人・賞与が飛び抜けて多い人を、原則どおり計算してしまう:この2ケースは特殊計算。給与ソフトか税理士に回します。
- 賞与支払届を出し忘れる:支給から原則5日以内。計算だけで満足せず、届出までがワンセットです。
- 料率・税額表を去年のまま使っている:社会保険料率・雇用保険料率・算出率の表は毎年見直されます。年度替わりは最新版に差し替えます。
- 退職が絡む賞与を自己判断で進めてしまう:資格喪失月の賞与は保険料の扱いが例外。迷ったら年金事務所・社労士に確認します。
どれも「年に数回しか触らないから」起きるもので、あなたの努力不足ではありません。一度、3つの土台という地図を持てば、同じ場所で止まらなくなります。
賞与計算チェックリスト
「全部を完璧に暗記」ではなく、支給のたびに上から順に確認できる形にしました。できるところまでで十分です。
【計算する前に用意する】
- 最新の保険料額表(協会けんぽ都道府県・組合)を開いたか
- 最新の雇用保険料率を確認したか
- 賞与の前月に支払った給与(社保控除後)の金額を用意したか
- 対象者の扶養親族等の数(扶養控除等申告書)を確認したか
【計算するとき】
- 社会保険料:標準賞与額(1,000円未満切り捨て)× 料率を、労使折半で本人負担分だけ引いたか
- 40歳以上65歳未満の人に、介護保険料を上乗せしたか
- 雇用保険料:賞与額そのもの × 料率で計算したか
- 源泉税:前月給与から税率を求め、賞与(社保控除後)にその税率をかけたか
- 前月給与ゼロ・賞与が前月給与の10倍超に当てはまらないか確認したか
【支給した後に】
- 賞与支払届を原則5日以内に提出したか
- 源泉所得税を、給与分と合わせて期日までに納付できる状態か
明日やること(まず1つだけ)
全部を一度に完璧にしようとすると、それだけで気が重くなります。 明日やることは、「今回の賞与計算で使う〈賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表〉の最新版を1つ開いて、対象者1人分の“前月給与(社保控除後)と扶養の数”がどの欄に当たるかを、指でたどってみる」だけで十分です。
この「源泉税の土台は前月給与」が手で確認できると、賞与計算のいちばんの山を越えたようなものです。1人分をたどり切れたら、賞与の3つの土台の地図は、もうあなたの中にできています。あとは同じ道を、人数分たどるだけです。
最後に
賞与の計算は、金額が大きいぶん「間違えたくない」という緊張が強く、しかも年に数回しか触らないから毎回思い出しながら進める——静かに気をつかう仕事です。社会保険料、雇用保険料、源泉所得税と、土台のちがう3つを一人で組み立てているのは、本当に骨の折れることだと思います。

でも、これは「一発で全部覚える試験」ではありません。社会保険料は標準賞与額から、雇用保険料は賞与額から、源泉税は前月の給与から。この3つの土台の切り替えを一度つかんでしまえば、賞与のたびに一から悩まずに済みます。今日、どの数字を土台にするかがひとつ頭に入ったなら、それはもう「なんとなく引く作業」が「わかって進める作業」に変わり始めた証拠です。完璧でなくて大丈夫。今日たどれたところまでで、十分前に進んでいます。
本記事は一般的な実務情報です。社会保険料率・雇用保険料率・源泉徴収税額表は毎年見直され、退職や特殊なケースの取扱いは個別の事情によっても異なります。最終的な判断は、日本年金機構・国税庁の最新情報や、顧問税理士・社会保険労務士にご確認ください。
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