
役員貸付金・役員借入金の仕訳|認定利息と残高管理の基本
月次の残高を眺めていると、いつも同じところで目が止まる。
役員貸付金 1,240,000
去年からほとんど動いていない。増えたきっかけは、たしか社長が経費の精算をしないまま引き出した現金だった気がする。でも、はっきりとは思い出せない。税理士さんには「決算で聞きますね」と言われたきり。社長に「あの出金、何でしたか」と聞くのは、なんとなく気が引ける。
——この「聞きづらさ」を抱えたまま、そっと置いてある残高。ひとりで経理を回していると、これは本当によくあります。
置いたままにしているのは、あなたが仕事を後回しにしているからではありません。役員とのお金の貸し借りは、経理の判断だけでは終わらない話だからです。相手は社長で、金額の背景には会社の事情があって、直し方を決められるのも社長。担当者ひとりで完結できない仕事を前にして手が止まるのは、ごく自然なことです。
この記事では、貸付金と借入金の向きの見分け方/なぜ残高が増えるのか/会社が貸したときに必要になる利息(認定利息)/それぞれの仕訳/残高を管理する型/社長への聞き方を、順番に整理します。今日は全部を解決しなくて大丈夫。まずは「いま何が起きているか」を言葉にできる状態を、一緒に作りましょう。
結論:役員とのお金は、向きで扱いがはっきり分かれます。①会社が役員に出したお金は役員貸付金(資産)。原則として利息をとる必要があり、とっていない場合は利息相当分が役員給与(経済的利益)として扱われることがあります。②役員が会社に出したお金は役員借入金(負債)。こちらは無利息のままでも原則問題になりません。だから経理としてやることは、(1)残高の中身を1件ずつ洗い出す→(2)増減を記録する台帳を1枚作る→(3)貸付側なら利息の計算を決算までに用意する→(4)返済の道筋は社長と税理士に判断してもらう、の4つです。判断まで背負わなくて大丈夫。材料をそろえるところまでが、経理の仕事です。
まず、お金の「向き」を確かめる

いちばん間違えやすいのが、この向きです。名前が似ているので、決算のときに逆に覚えてしまうことがあります。確かめ方はシンプルで、「会社のお金が出ていったのか、入ってきたのか」だけを見ます。
- 会社のお金が出ていった(社長に渡した・社長の支払いを会社が負担した)→ 役員貸付金。会社から見れば「返してもらう権利」なので、資産です。
- 会社にお金が入ってきた(社長が会社に入れた・社長が会社の支払いを立て替えた)→ 役員借入金。会社から見れば「返す義務」なので、負債です。
貸借対照表のどちら側に並ぶかで覚えると、迷いにくくなります。資産は左(借方)、負債は右(貸方)。貸借対照表の見方とあわせて眺めると、位置関係がつかみやすくなります。
会計ソフトによっては、科目名が「短期貸付金」「短期借入金」になっていて、補助科目で「役員」と分けている場合もあります。名前が違っても中身は同じです。ただ、決算書の勘定科目内訳明細書では役員分を分けて書くことになるので、補助科目か摘要で「誰の分か」が分かるようにしておくと、決算のときに探し直さずに済みます。
なぜ役員貸付金は増えてしまうのか
残高が増えるパターンは、だいたい決まっています。どれも「誰かがサボった結果」ではなく、日々の忙しさの中で処理が追いつかなかったというだけの話です。
- 使途がはっきりしない現金の引き出し。通帳に出金だけがあり、領収書が出てこない。とりあえず仮払金に置いて、決算で役員貸付金に振り替えられる。
- 社長の私的な支払いを会社のカードで決済した。日用品や家族の食事などが、会社のカード明細に混ざっている。
- 精算されないままの仮払金。出張の前渡し金が、精算書とともに戻ってこない。
- 現金過不足の行き先。合わない現金の原因が最後まで分からず、社長が持ち出した可能性が高い、という整理で残る。
こうした処理は、立替経費・仮払金の精算や現金過不足の原因の探し方の延長線上にあります。手前の運用を整えると、そもそも役員貸付金に落ちてくる金額が減っていきます。
ここで大事にしたいのは、残高があること自体を「悪いこと」として扱わないことです。中小企業では、会社と社長のお金の距離が近いのが普通です。急な支払いを社長が立て替え、逆に社長が会社から借りることもある。問題になるのは、残高があることではなく、中身と経緯が説明できない状態のまま放置されることです。説明できる形に整えるのが、これからやることです。
会社が役員に貸したときは、利息が必要になる
役員貸付金でいちばん見落とされやすいのが、利息です。
会社が役員にお金を貸して無利息、または低い利率にしていると、本来受け取るべき利息との差額が、役員が受けた経済的な利益(=役員給与)として扱われることがあります。これがいわゆる「認定利息」と呼ばれるものです。実務では、決算のときに会社側で利息を計算して収益に計上しておく、という形で対応することが多くなります。
利率はいくらで計算するのか
適正な利率の考え方は、大きく2つに分かれます。
- 会社が他から借り入れたお金を、そのまま役員に貸した場合 → その借入金の利率を使います。
- それ以外の場合(会社の手元資金から貸した場合) → 貸付けを行った年に応じて国税庁が示す利率を使います。この利率は年ごとに見直されて公表されるもので、近年は年1%前後で推移しています。
ここは金額に直結するので、必ず貸付けを行った年の最新の割合を、国税庁のタックスアンサー「金銭を貸し付けたときの経済的利益」(No.2606)で確認してください。前年の資料をそのまま流用すると、率が変わっていたときにずれます。税理士に決算を依頼しているなら、「今年の認定利息は何%で計算しますか」と一言確認するのがいちばん確実です。
利息をとらなくてよい場合もある
例外もあります。たとえば次のようなケースでは、経済的な利益として課税しなくてよいとされています。
- 災害や病気などで臨時に多額の生活資金が必要になった役員に、返済期間を定めて合理的な範囲で貸し付けた場合
- 会社の平均調達金利など、合理的と認められる利率で貸し付けている場合
- 利息相当額の年間合計が少額(5,000円以下)にとどまる場合
3つ目は、残高が小さい会社では実際に当てはまることがあります。残高10万円台で年1%なら、利息は年1,000円程度。この場合は計上不要と整理できることもあります。とはいえ最終判断は個別の事情によるので、計算だけはしておいて、要否は税理士に確認するという進め方が安全です。
認定利息の計算例
期中に残高が動く場合は、平均残高で計算するのが分かりやすい方法です。
例:期首残高1,200,000円、期末残高800,000円、年利1%で1年分を計算する
- 平均残高 =(1,200,000円 + 800,000円)÷ 2 = 1,000,000円
- 認定利息 = 1,000,000円 × 1% × 12か月 ÷ 12か月 = 10,000円
月ごとの残高が大きく動く会社なら、各月末残高の合計 ÷ 12 で平均残高を出すと、より実態に近い金額になります。
例:月末残高の平均で計算する(各月末残高の合計が9,600,000円だった場合)
- 平均残高 = 9,600,000円 ÷ 12か月 = 800,000円
- 認定利息 = 800,000円 × 1% = 8,000円
どちらの方法でも構いませんが、一度決めたら毎期同じ方法を続けることが大切です。年によって計算方法を変えると、前期と比べられなくなり、説明もしにくくなります。Excelで月末残高を並べておくと、翌期からは数字を足すだけで済みます。集計の型はExcelで経理の集計を時短|SUMIF・VLOOKUPの使い方が参考になります。
実際の仕訳例
判断の材料がそろったら、あとは記帳です。よくある形を並べます(金額・科目名は一例です。自社の科目体系に合わせてください)。
例1:社長へ300,000円を普通預金から貸し付けた
(借方)役員貸付金 300,000 / (貸方)普通預金 300,000
摘要:代表者へ貸付(金銭消費貸借契約 ○年○月○日付)
例2:使途不明の出金を、決算で役員貸付金に振り替えた(仮払金150,000円)
(借方)役員貸付金 150,000 / (貸方)仮払金 150,000
摘要:○月○日出金分 精算未了のため振替(代表者)
例3:社長から返済を受けた(100,000円が普通預金に入金)
(借方)普通預金 100,000 / (貸方)役員貸付金 100,000
摘要:代表者からの返済 ○月分
例4:役員報酬から天引きして返済にあてた(報酬500,000円のうち50,000円を返済に充当)
社会保険料や源泉所得税の控除に加えて、返済分を差し引く形です。
(借方)役員報酬 500,000 / (貸方)預り金 75,000
/ (貸方)役員貸付金 50,000
/ (貸方)普通預金 375,000
摘要:○月分 役員報酬(貸付金返済50,000円を控除)
例5:決算で認定利息10,000円を計上した(現金では受け取らず、残高に加算する場合)
(借方)役員貸付金 10,000 / (貸方)受取利息 10,000
摘要:代表者貸付金 認定利息(平均残高1,000,000円×年1%)
受け取る形にする場合は、借方を「未収入金」にして、実際の入金時に消し込みます。どちらにするかは会社の方針で構いませんが、残高に加算し続けると貸付金が減らなくなるので、その点は社長と共有しておきましょう。
なお、受取利息は消費税では非課税売上です。金額は小さくても、課税売上割合の計算に関わることがあるので、税区分は「非課税売上」で入力しておきます。税区分そのものの整理は消費税の税区分の付け方でまとめています。
例6:社長が会社にお金を入れた(役員借入金500,000円が普通預金に入金)
(借方)普通預金 500,000 / (貸方)役員借入金 500,000
摘要:代表者からの借入
例7:社長が会社の支払いを立て替えた(消耗品30,000円を社長が個人のカードで購入)
(借方)消耗品費 30,000 / (貸方)役員借入金 30,000
摘要:代表者立替(○○店 領収書あり)
例8:役員借入金を返済した(200,000円を普通預金から)
(借方)役員借入金 200,000 / (貸方)普通預金 200,000
摘要:代表者への返済 ○月分
役員借入金は、無利息のままでも原則として問題にならないとされています。社長が会社から利息を受け取らないだけなので、会社側で得をした分を課税される、という扱いにはならないのが一般的です。返済のときも、元本をそのまま返すだけで構いません。借入金の返済仕訳の考え方は借入金の返済の仕訳と同じ形です。
残高を「説明できる状態」にする管理台帳
利息の計算より先に効いてくるのが、残高の中身が1件ずつ分かることです。Excelで1枚、こんな表を作っておくと、決算のたびに探し直さずに済みます。
| 日付 | 相手 | 区分 | 内容 | 増加 | 減少 | 残高 | 証憑 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 4/10 | 代表 | 貸付 | 現金引出(使途未確認) | 200,000 | — | 1,200,000 | 通帳 |
| 5/25 | 代表 | 貸付 | 返済(報酬から控除) | — | 50,000 | 1,150,000 | 給与明細 |
| 6/30 | 代表 | 借入 | 消耗品の立替 | 30,000 | — | — | 領収書 |
ポイントは3つだけです。
- 貸付と借入を1枚の表で混ぜない(区分の列で分けるか、シートを分ける)。相殺できるとは限らないので、それぞれの残高が分かる形にしておきます。
- 証憑の列を作る。「通帳」「領収書」「給与明細」など、根拠がどこにあるかを一言だけ書きます。決算で聞かれるのはほぼここです。
- 月次で会計ソフトの残高と突き合わせる。ずれていたら、その月の中に原因があります。1年分をさかのぼるより、はるかに楽です。
この突き合わせは、月次のルーティンに組み込んでしまうのがおすすめです。ひとり経理の月次決算チェックリストの中に「役員貸付金・役員借入金の残高照合」を1行足しておけば、毎月自然に確認できます。
社長への聞き方(そのまま使える言い方)
いちばん気が重いのが、ここかもしれません。使途を尋ねると、責めているように受け取られないか心配になります。
コツは、「経理として困っている」ではなく「決算で必要になる」という形で伝えることです。相手を主語にせず、書類を主語にします。
お疲れさまです。決算の資料づくりで、税理士さんから残高の内訳を聞かれる箇所がありまして、○月○日の出金200,000円について、使いみちを教えていただけますか。経費に該当するものであれば、領収書をいただければこちらで振り替えておきます。
決算書に載る形を整えたいので、貸付金の返し方の方針だけ、税理士さんとの打ち合わせのときに決めていただけると助かります。こちらで返済のパターンをいくつか用意しておきます。
前者は「あなたが何に使ったか」ではなく「書類を整えるために教えてほしい」という頼み方。後者は、判断を社長に返しつつ、材料はこちらで用意するという伝え方です。どちらも、あなたが判断を背負わなくていい形になっています。
残高を減らしていく方法(判断は社長と税理士へ)
役員貸付金は、放っておいても減りません。そして残高が大きいままだと、金融機関から決算書を見られたときに説明を求められることがあります。会社のお金が事業以外に出ている状態に見えるためです。
現実的な選択肢は、だいたい次のようなものです。どれを選ぶかは会社の資金繰りと税金の両方に関わるので、必ず税理士に相談したうえで、社長に決めてもらってください。
- 役員報酬から毎月一定額を返済にあてる(例4の形)。いちばん確実で、続けやすい方法です。
- 賞与や退職金の支給時にまとめて相殺する。役員賞与は損金の扱いが特殊なので、事前の確認が必要です。
- 社長個人の資産を会社に売却して、その代金で返済する。価格の妥当性が問われます。
- 債務免除する(会社が返済を求めないことにする)。免除した金額が役員給与として扱われるなど、税務上の影響が大きい方法です。必ず税理士の判断を仰いでください。
経理担当としてやるべきなのは、この4つを比べて決めることではありません。現在の残高と、月々いくらなら返済にあてられるかという資金繰りの見通しを、数字で用意しておくことです。判断材料さえそろっていれば、打ち合わせは短く済みます。資金の見通しは資金繰り表の作り方の型がそのまま使えます。
役員貸付金・役員借入金のチェックリスト
決算前や、残高が気になったときに、上から順に確認してみてください。
- 残高の向きは合っているか(会社が出した=貸付金/会社に入った=借入金)
- 貸付金と借入金を、勝手に相殺していないか
- 補助科目や摘要で「誰の分か」が分かるようになっているか
- 残高の中身を、1件ずつ日付・金額・内容で説明できるか
- 使途未確認の出金に、社長へ確認する印をつけたか
- 貸付金がある場合、認定利息の計算をしたか(利率は貸付けを行った年のものか)
- 認定利息の税区分を「非課税売上」で入力したか
- 会計ソフトの残高と、管理台帳の残高が一致しているか
- 金銭消費貸借契約書や返済の取り決めが残っているか(なければ税理士に相談する印をつける)
- 返済の方針について、社長と税理士に判断してもらう材料を用意したか
明日やること(まず1つだけ)
全部を一度に整えようとすると、それだけで気が重くなります。 明日やることは、「会計ソフトで役員貸付金(または役員借入金)の元帳を開いて、今期の増減を上から書き出す」だけで十分です。
Excelでもメモ帳でも構いません。日付・金額・摘要を写して、内容が思い出せないものにだけ印をつける。それだけで、いま自分が何を確認すればいいのかが見えてきます。
印がついた行が3件だったなら、社長に聞くのは3件です。「残高が100万円ある」より「3件だけ分からない」のほうが、ずっと話しかけやすくなります。
最後に
会社と社長のお金が近い距離にあるのは、小さな会社ではごく普通のことです。急な支払いを社長が立て替え、社長が会社から借りることもある。その一つひとつを帳簿に残して、あとから説明できる形にしておく——それを続けているのは、簡単なことではありません。

聞きづらい残高を抱えていた時間は、無駄ではありませんでした。気になっていたからこそ、今日この記事にたどり着いている。残高の中身を書き出して、分からない行に印をつけたら、あとは社長と税理士の出番です。あなたが全部を決める必要はありません。
今日、元帳を開くところまでできたなら、それで十分です。困ったらまたここで、一緒に確かめましょう。
本記事は一般的な実務情報です。役員に対する貸付けの利率や経済的利益の取扱い、債務免除や相殺の税務上の影響は、会社の状況や個別の事情、最新の通達によって異なり、改正されることもあります。認定利息の利率は年ごとに見直されます。最終的な判断は、国税庁の情報や、顧問税理士・所轄税務署にご確認ください。
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